2018.07.21

高橋洋監督・脚本『霊的ボリシェビキ』を観てきた

霊的世界へのアクセスを試みる前衛党の皆さんが百物語を実施したら,こんなことが起きた――という話。

Bolsheviki01

霊×ボリシェビキというネーミングですでにこの映画は成功している。

「霊的ボリシェビキ」概念は武田崇元氏が提唱したもので,この概念に憑依された高橋洋監督が映画として結実させたのが,これである。

分類としてはホラーに入るのだが,あまり怖くないというのがいい。

この映画の怖さを1ボリシェビキと定義すると,この間見たヨルゴス・ランティモス監督『聖なる鹿殺し: the KILLING of a SACRED DEER』参考)の怖さは100ボリシェビキぐらい,トム・フォード監督『ノクターナル・アニマルズ』参考)の怖さは30ボリシェビキぐらいある。

ホラーではないにもかかわらず,鈴木清純監督『ツィゴイネルワイゼン』参考)や大林宣彦監督『花筐』参考)ですら10ボリシェビキぐらいの怖さだ。

怖くないのに何がいいのか,というと,それはこの映画の持つカルト性である。

だいたい,降霊の場を清めるためにレーニン&スターリンの肖像画の前でボリシェビキ党歌を歌う冒頭のタイトルバックとか,参加者を杖で制裁する霊媒・宮路(長宗我部洋子)ややたら叫ぶ長尾(南谷朝子)といった過剰演技の女性陣とか,全員が銃で粛正されてしまうエンディングとか,どれをとってもカルト映画の香気が芬々。革命党の栄枯盛衰を短時間で見せられるような演出にはとても引き付けられる。

死刑囚の話をした三田を演じた伊藤洋三郎は,語り口がとても良い。怖い話が稲川淳二並みに上手い。聞き入ってしまった。

反逆的な安藤を演じた巴山祐樹は共感されない,みんなから嫌われる演技がとてもいい。生贄にされるのもむべなるかな。

それにしても主役ともいうべき橘由紀子を演じた韓英恵。顔の角度,表情を僅かに変化させるだけで,多くを語ることができる。能面のようだ。特に目。目の変化を見るだけで,何事がおこっているのかが観客に伝わる。上手い。この女性なら憑依されるだろうという期待に見事に応えてくれる。

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2018.07.02

末井昭原作・冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』観てきた

日曜日にYCAMで観た2本の映画のうちの二つ目は冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)である。「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」編集長として名高い末井昭氏の若き日を描いた作品。

「芸術は爆発だったりすることもあるのだが,僕の場合,お母さんが爆発だった――」という有名な一節から物語は始まる。

Dynamitescandal

ダイナマイト心中で母を失った田舎の少年はやがて大都市に出て,工員,看板描き,イラストレーターを経て,編集者となる。そして,新感覚のカルチャー・エロ雑誌を創刊,大ヒットさせる(さらに発禁処分を受ける)。

母親のダイナマイト心中という悲惨な出来事が,むしろ末井氏の周りに才能ある人々を集めるポジティブな作用をもたらしているというのが面白い。末井氏(演じるは柄本佑)は劇中で「母は爆発で僕を岡山の田舎から東京に吹き飛ばしてくれた」というようなことを言って,母に感謝している。

母(演じるは尾野真千子)に対して,どうしようもないのが父(村上淳)で,そのどうしようもないところは,

『流れる雲のように』第3話(末井昭,青林工藝舎・放電横丁,2013年12月2日)

に描かれているので是非,ご一読ありたい。

いろいろと規制がある一方で,大らかさを感じる昭和時代。その空気が十分に伝わってくる。

末井昭役の柄本佑の演技がとても良い。俳優ではなく裏方の仕事がしたかったというだけあって,デザイナーや編集者の仕事ぶりが板についている。

末井氏の糟糠の妻を演じる前田敦子の演技も良い。美声ではないし,ちょっと訛っているのが自然である。あっちゃん頑張っている。この糟糠の妻と末井氏は後に別れており,そのあたりのことは

『結婚』(末井昭,平凡社)

で触れられている。これもご一読ありたい。

愛人・笛子を三浦透子が演じているが,バタ子さんこと田畑智子に似た感じ。メンヘラ―の演技が上手いし怖い。

末井氏の雑誌の検閲を担当する警視庁諸橋係長を松重豊が演じているが,妙な真面目さと訛の混じった語り口に,観客からも笑いがこぼれた。

エンディングには末井昭氏ご本人と尾野真千子によるデュエット曲「山の音」(菊池成孔)流れるが,ヘタウマの妙ですごく良い曲になっている。

褒めるところばかりの面白い映画だった。昭和万歳。

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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』観てきた

この日曜日,ツマとYCAMに出かけて,2本の映画を観てきた。
そのうちの一本がリューベン・オストルンド監督『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017年)である。

Thesquare

地位も名声も,そしてテスラに乗っているところからするとお金もある,現代美術館のキュレーター,クリスティアン(演じるはクレス・バング)。新たに「ザ・スクエア」という作品を展示することを企画した。「ザ・スクエア」とは,地面に描かれた正方形。この正方形の中は人々が平等の権利と義務を持つ聖域である。クリスティアンは「ザ・スクエア」を,思いやりの心を呼び起こすアート作品として,世の中にアピールしようとしている。

だが,ある日,クリスティアンが携帯電話と財布を掏られる事件が起きたところから,歯車が狂い始める。次々に発生するトラブルによって,格差・差別・表現の自由といった問題に対する美術館スタッフ,そしてクリスティアンの建前,虚飾,仮面が剥ぎ取られ,クリスティアンは自分自身の本当の姿を直視せざるを得なくなっていく・・・。

毒とユーモアに満ちた作品であるが,後半は毒が回りすぎてとても笑えない状況に陥っていく。

映画の終盤,クリスティアンが少年に謝罪しようとして果たせなかったところは,予定調和を拒否していてとても良い。

エリザベス・モス演じる美術記者のアンが少し狂気を感じさせて面白い。眼力,言動,そしてチンパンジーと同居しているあたり。

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2018.06.27

是枝裕和監督『万引き家族』観た

普段は単館上映タイプの映画ばかり見ているが,今回ばかりはあまりの評判の高さに,普通のシネコンに普通に見に行ったわけである。

ストーリー紹介は省略するが,キーワードは「スイミー」(レオ・レオーニの)。小さな魚は集まって,世間様という大きな魚に対抗せにゃいかんのです。

現代日本らしい問題の数々を限られた時間内に上手くまとめ上げた是枝監督の技量もすごいし,役者たちの演技力たるや手放しでほめざるを得ない。

リリー・フランキー,安藤サクラ,樹木希林なんか,ドキュメンタリーに出てくる一般の人かと思うリアリティ。

肉体,表情,しゃべり方のリアリティ。

樹木希林は入れ歯外しているし,安藤サクラも『百円の恋』(参照)の時と同様,体張っておられる。

リリー・フランキー,『洞窟おじさん』の時もすごかったが,今回もその延長上にいる。体が仕上がっている。せりふ回しが田中邦衛っぽかったのが少しやりすぎかもしれないが。

安藤サクラとリリーはもはや日本を代表する名俳優といって過言ではない。

子役の城桧吏(じょうかいり)君は上手すぎる。『誰も知らない』(2004年)の柳楽優弥を彷彿とさせる。どちらもスターダストプロモーション所属。末恐ろしい。佐々木みゆちゃんも今後ブレークします。きっと。

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2018.05.31

火山探検家タッキー:Nature系の雑誌にも名前が…

芸能界とかスポーツ界にはときおりアカデミックな業績を上げる人が登場する。

老生の知っているところでは,考古学者でもある,俳優・苅谷俊介がそうだ。

スポーツ界では室伏"アレクサンダー"広治がそうだ。本ブログでも過去に2回取り上げた(「室伏博士」(2007年7月4日),「室伏広治博士、機械学会誌に寄稿す」(2010年2月12日))。

で,このほど,タッキーこと滝沢秀明がこの列に加わった。

昨晩,NHKBSプレミアム「滝沢秀明の火山探検紀行」という番組が放送されていたのだが,この番組で,タッキーが火山探検家であり,資料の採取など,火山の研究にも貢献していることを知った。

一応確かめてみたら,Nature系の雑誌"Scientific Reports"に連名で登場していた:

"Giant rhyolite lava dome formation after 7.3 ka supereruption at Kikai caldera, SW Japan" (Scientific Reports volume 8, Article number: 2753 (2018))

インパクトファクター最高峰のNatureではないが,同グループの雑誌に名前が出るとは大したもの。素直に驚く次第。

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2018.05.26

ヨルゴス・ランティモス『聖なる鹿殺し: the KILLING of a SACRED DEER』観てきた

YCAMでヨルゴス・ランティモス監督『聖なる鹿殺し: the KILLING of a SACRED DEER』(2017年,アイルランド,イギリス)を観てきた。

Sacreddeer01

今まで観た映画の中で最も怖い部類に入るサイコ・スリラー。

とにかく,怖い怖い。バリー・コーガン怖い。観終わって茫然。

心臓外科医スティーブン(コリン・ファレル)が,父のいない少年・マーティン(バリー・コーガン)を家に招いたところから,スティーブン一家が悲劇に見舞われる。子供たちは歩けなくなり,スティーブンも妻アナ(ニコル・キッドマン)も精神を病んでいく。

全編にわたって,劇伴(映画音楽)が効果的。不気味な劇伴とともに,登場人物たちも観客も心理的に追い詰められていく。この映画,第70回カンヌ国際映画祭・脚本賞を受賞しているのだが,カンヌにもアカデミー賞のように音響編集賞があったら,それも受賞したことだろう。

あと,キッコ(by 秋本鉄次)ことニコル・キッドマンの鍛えぬいた背中と腹筋が見事。

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2018.05.14

「西郷どん」と「翔ぶが如く」:奄美大島の描き方の違い

昨晩(2018年5月13日),「西郷どん」第18話「流人 菊池源吾」が放送された。奄美大島編の開始である。とぅま(愛加那)を演じた二階堂ふみが「全部持ってった」(参考)と評判である。

さて,西郷を取り上げた大河ドラマといえば,18年前の「翔ぶが如く」がある。このときは,西田敏行が西郷を,鹿賀丈史が大久保を,石田えりが愛加那を演じていた。そういえば,西田敏行&石田えりといえば「釣りバカ日誌」でも夫婦役だった。

当時

  • 西田敏行42歳
  • 鹿賀丈史39歳
  • 石田えり39歳

さて,その「翔ぶが如く」では奄美大島の話は第12話から第16話までの5回にわたって登場する。本放送の日と各話のタイトルは次の通り:

  • 1990年04月01日(日) 翔ぶが如く(12)「吉之助入水」
  • 1990年04月08日(日) 翔ぶが如く(13)「正助の布石」
  • 1990年04月15日(日) 翔ぶが如く(14)「桜田門外の変」
  • 1990年04月22日(日) 翔ぶが如く(15)「南国の女」
  • 1990年04月29日(日) 翔ぶが如く(16)「吉之助帰る」

「翔ぶが如く」ではそれなりの話数を割いて奄美大島の話を描いている。しかし,大久保利通もまた主人公であるため,各話では薩摩藩内の政争の描写について時間が割かれ,奄美の生活を描くことにあまり重きが置かれていなかった。

これに対して「西郷どん」では奄美大島での生活が一話全体にわたって描かれている。これは,原作者と脚本家が奄美大島での生活を西郷の転機として重視していることによる。ここが,司馬遼太郎の視点との違い。

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2018.05.12

Eテレで"Homme Less"放映

昨年の5月,YCAMで『ホームレス ニューヨークと寝た男』(トーマス・ヴィルテンゾーン監督 2014年)を観てきた(参照)。

ニューヨークで暮らす,ホームレス・フォトグラファーにして俳優のマーク・レイ (Mark Reay)を追ったドキュメンタリー。

その圧縮版ともいえるドキュメンタリーがEテレで放映されていたので見た(Eテレ「ドキュランドへようこそ!」)。


Homme Less Trailer from Filmfestival Kitzbühel on Vimeo.

改めて見たが,やはり面白かった。

前半,ホームレスでありながらスタイリッシュに充実した生活を送るクリエイターとして登場する,ジョージ・クルーニー張りのイケメン,マーク・レイ52歳が,後半では強がりと弱音を繰り返すおっさんにしか見えなくなってくるという変化が面白い。

この人,どうなったのか気になったので,Wikipediaで調べたところ,2015年時点では,ニューヨークに住み,俳優およびモデル業を続けている,としか書いていなかった。

その後が気になったのでさらに調べてみたところ,彼のInstagramを発見した:

markreay66

まだ頑張っているようで何よりである。

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2018.05.04

ワン・ビン監督『苦い銭』を観てきた

YCAMでワン・ビン (Wang Bing) 監督『苦い銭(苦銭)』を見てきた。

第73回ヴェネツィア映画祭オリゾンティ部門脚本賞,ヒューマンライツ賞受賞。

Snigaizeni

中国湖北省湖州には個人経営の縫製工場が18000ある。そこで働く出稼ぎ労働者の日常を描いたドキュメンタリー。


ヘッドマウントディスプレイを装着しているかのような圧倒的な没入感。 カメラマンの存在を感じさせない。

中国の人々のせわしなさ,町の喧騒ぶりにうちのツマが疲れ果てたほど。

会話していてもミシンに添えた手を休めない女性たちがいる一方で,酒におぼれるダメ男もいる。安徽省から出てきて店を開くも喧嘩の絶えない夫婦もいる。


小生は今から十年前に中国内陸部を何回も訪れ,湖北省にも足を運んだことがあるが,その時の街の様子を思い出し,懐かしさすら感じた。

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2018.04.16

ウォン・カーウァイ『欲望の翼』 | 王家衛『阿飛正傳』を観てきた

1960年4月16日3時1分前
君は僕といた
この1分を忘れない――


YCAMで,ウォン・カーウァイ(王家衛)『欲望の翼(阿飛正傳)』デジタルリマスター版を観てきた。

Yokubounotsubasa

オープニング。ゆっくりとパンしていくヤシ林の美しさ。

温帯夏雨気候の都市ならではの気怠さと,登場人物たちの徐々に嵩じていく焦燥感とが映画全編を支配している。

ヨディ,スー,ミミ,サブ,タイド,男女の思いがすれ違う。

レスリー・チャン,マギー・チャン,カリーナ・ラウ,ジャッキー・チュン,アンディ・ラウ,香港のスーパースターたちが一堂に会した奇跡の作品。

ほんとに香港の俳優陣は魅力的だ。北京官話もままならないのに,広東語を勉強しようかと思ったぐらい。

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