2017.01.05

お節介な顔認識テクノロジーに対抗する

さて,本日も英語の勉強ということで,the guardian紙のサイトを見ていたわけだが,面白そうな記事を見つけた:

"Anti-surveillance clothing aims to hide wearers from facial recognition" (by Alex Hern, the guardian, Wednesday 4 January 2017)

ベルリンを拠点として活動しているアーティスト兼技術屋のアダム・ハーヴィー(Adam Harvey)が,顔認識(顔認証)技術に抵抗する衣服を開発している,というニュースである。

このアダム・ハーヴィー,以前,「顔認識を拒否する化粧法」を開発して発表していた。その化粧法は,Wired誌でも取り上げられていた(参考)が,"CV Dazzle"というネーミングだった。

今回,ハーヴィーが提案しているのは,顔と誤認識させるテキスタイル・パターン(布地の柄)である。ガーディアン紙に写真が掲載されているので,そちらを見ていただきたいが,コンピュータがそのテキスタイル・パターンを見ると何百・何千という顔を認識してしまい,来ている人の顔を認識できなくなるというわけである。いわば,顔の飽和攻撃。

ハーヴィーがこのような対抗技術を開発している動機は,もちろんプライバシーの擁護,ということであるが,さらに言えば,人間の外観から人間の価値を決定しようとする誤った考え方への批判という意味もある。

ガーディアンの記事によれば,顔認識システムは,マーケティングから犯罪抑止まで応用されつつあるという。上海交通大学の研究者は,口や鼻の位置関係から犯罪性を見破ることができるとまで言っているという。

こういったお節介な顔認識テクノロジーはフランシス・ゴルトンらの優生学を思い起こさせる,とハーヴィーは言う。犯罪者は犯罪を実行する人々のことであって,犯罪者に見える人々のことではない,ということが忘れ去られているわけだ。


◆   ◆   ◆


ここで小生が思い出したのが,2013年9月にガーディアン紙でスラヴォイ・ジジェクが語っていたことである(参考)。本記事に関連する部分を再録してみる:

現在,大量の個人情報が国家によって収集されているが,それは膨大過ぎて情報機関のコンピュータをフル活用しても処理しきれないほどである。すると場合によってはコンピュータ・プログラムのバグによって,普通の市民がテロリストと誤認される可能性もある。なぜテロリスト判断されたのか,理由もわからずに。
"Without knowing why, without doing anything illegal, we can all be listed as potential terrorists." (Slavoj Zizek)

顔認識システムが誤った進化を遂げると,我々は何かの拍子に,犯罪者としてリストアップされ,ネット上で曝され,クレジットカードの使用を停止され,生存すらできなくなる可能性があるというわけである。

我々には認識されない自由というのも必要だろう。

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2016.09.08

(続)日曜言語学者の憂鬱:"B"と"V"の関係を考える

以前,「ベータ(β)はいつヴィータとなりたまいしか?」という記事で,ギリシャ語の”β”という文字が,/b/という子音ではなく,/v/という子音を表すのに使われていることを述べた。

古代ギリシャ語では”β”は,/b/という子音を表すのに使われていたものの,ニコラス・バフチン『現代ギリシア語研究入門』の子音に関する記事によれば,”β”の/v/化は紀元前4~3世紀に地中海各地ですでに始まっていたのだそうだ。

日本語ではもともと/v/の発音は無かった。/v/の発音を表現するため,近代に入って「ヴ」という書き方をするようになったものの,日常の日本語会話の中で「ブ」と「ヴ」を区別して発音することは皆無である。

ギリシャ語の場合は歴史的に/b/から/v/へとシフト,日本語の場合は,/b/と/v/を/b/に統合,というように,/b/と/v/を等価に扱っている。

他の例はないだろうかと調べてみたら,スペイン語でも/b/と/v/を/b/に統合していることがわかった。スペイン語では"Victoria"は「ヴィクトリア」ではなく「ビクトリア」なのである。スペイン語の影響を受けているバスク語でも/b/と/v/を/b/に統合している。

音声学において/b/と/v/はともに下唇を用いて調音される音,唇音(しんおん,Labial consonant)に属している。

唇音はさらに,両唇音Bilabial consonant)と唇歯音Labiodental consonant)に分かれ,/b/は両唇音に,/v/は唇歯音に属している。

/b/と/v/の交替や統合は,唇音の中での交替や統合として考えれば一応は納得ができるが,小生のような日曜言語学者ではなく,プロの言語学者の見解はどうだろうか?

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2016.06.28

大名の石高はパレートの夢を見るか?

前から気になっていたことをやってみた。

江戸時代の大名の石高の分布はひょっとしたらパレートの法則(ざっくり言うと「80-20の法則」)に従うのではないかと。

パレートの法則というのは経験則で,全体の数値の大部分(8割)は,全体を構成する要素の一部(2割)が生み出している,というような内容。

これを大名の石高でいえば,全国の石高の8割を2割の大名が占めている,ということになる。

果たしてそうだろうか?

とりあえず,寛文印知に基づいて,17世紀中ごろの大名の石高をまとめてみる。

次の表に示すのが,大名の石高を高い順に並べた結果である(全部で227家):

ただし,Wikipediaにも記載されているように,甲府徳川家,舘林徳川家,御三家については寛文印知の対象外だったので,それらの石高はあまり正確でない。

また,ここに挙げた石高には大名以外の大領主,例えば公家,門跡,寺社等は含まれていない。あと,重要なことだが幕府直轄地も入っていない。

以上のデータを使って,大名を石高の高い順に並べてみたのが下のグラフである:

Kanbun01
各大名の石高(石高の高い順に並べた結果)

1位はもちろん加賀百万石で知られる前田家。次が伊達で,尾張名古屋の徳川家,島津,そして紀伊和歌山の徳川家と続く。5位までで全大名の石高の2割近くになる。

このグラフの縦軸を対数表示にしたのが次の図である:

Kanbun02
各大名の石高(指数表示。石高の高い順に並べた結果)

200位以下は10,000石ちょうどの大名ばかりなので,直線的になってしまう。

必ずしもきれいな回帰ができないが,指数関数で回帰した結果も重ね合わせてみた。


次に,大名を石高の高い順に並べ,それらの石高を累積してみた結果を示す。

Kanbun03
累積石高(石高の高い順に並べた結果)

随分ときれいな曲線となった。上位20%,すなわち45位までの石高の合計は1237万石で全体に占める割合は67.8%だった。約7割。惜しくもパレートの法則には届かなかった。

ただし上述したようにここでは幕府直轄地の石高が入っていない。それを入れたらパレートの法則にしたがう結果が出るかも。

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2015.10.22

椋鳥通信に見るノーベル賞の話題

年末が迫るにつれ,ノーベル賞が話題になるというのは百年前も同じだったようである。

鴎外は1911年12月1日発の椋鳥通信でノーベル賞受賞者の噂と結果について書いている。

まず,予想(噂)はこうだった:

○今年のノベル賞金を医学ではAllvar Gullstrand (Upsara)が貰う筈。目の屈折機を研究した人である。……○今年のノーベル賞金を受ける人々の候補は理学でEdison, Tesla(並にアメリカ)Bjerknes(ノルウェエゲン)化学でNernst(ベルリン)Svedberg(スウェエデン)文学でMaeterlinck(ベルジック)Heidenstam, Strindberg(並にスウェエデン)Troels, Pontoppiddan(並にデネマルク)平和事業でEllen Keyである。(22~23ページ)

で,結果はこうなった:

○ノベル賞金は化学がMadame Curieになるらしい。夫人は二度目に賞金を受けるのである。文学は矢張Maeterlinckになりそうだが,Schoenherrにしようかという意見もある。併しHauptmannが受けていないのに,ショオンヘルが受けるのもいかがのものか。 ○ノベル賞金を理学で受けるものはMax Planck (Berlin), W. Wien (Wuerzburg)の二人らしい。 ○Madame CurieがLangevinと失踪したと云う話が取り消された。二人共Bruxellesの学会に出ていると云うのである。(31ページ)

キュリー夫人は「ラジウムとポロニウムの発見,ラジウムの性質およびその化合物の研究」の業績で二度目のノーベルを受賞した。ちなみに一度目の受賞は1903年の物理学賞である。

椋鳥通信の記事が事実と異なるのは物理学賞。ヴィーンは「熱放射の諸法則に関する発見」によりノーベル物理学賞を受賞したが,マックス・プランクは受賞していない。プランクが受賞するのは1918年である。

最後の部分は余計な話題であるが,夫亡き後のキュリー夫人が夫の教え子ランジュバンと不倫関係にあるというゴシップ記事である。ランジュバンには妻がいた。ノーベル賞予想に絡めて候補者のスキャンダルを取り上げるのが鴎外流。

ちなみに,ノーベル生理学・医学賞は予想通りAllvar Gullstrandが受賞した。

で,文学の方はというと予想通りメーテルリンクが受賞した:

○ノベル賞金を受ける文学者はMaeterlinckと決定したそうだ。(34ページ)

このあと,鴎外は面白いお遊びを披露している。1901~1910年のノーベル文学賞受賞者の名前を並べてみるとメーテルリンクの名前が浮かび上がるというのである:

Nobellaureate_3

左が受賞者の名前,右が受賞年である。

ちょっと無理やりの感があるが,メーテルリンクの綴りが11文字であるのに対して,過去10年間に11人の受賞者がいたため,こういうお遊びができたわけである。

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2015.10.07

【ノーベル賞】どうして記者会見中に大臣からの電話が来るのか?

大村智先生が医学生理学賞を,梶田隆章先生が物理学賞を,というように連日ノーベル賞の話題で盛り上がっているのだが,気になるのが午後9時前に開かれる記者会見。

記者会見自体が気になるのではない。

どうして記者会見を中断するような形で文部科学大臣からの電話が入るのだろうか? それがとても気になる。

大臣室でテレビを見ていたら記者会見が始まったので,それであわてて電話を入れたということだろうか? 大村智先生の時は安倍ちゃんのお電話も加わっていた。安倍ちゃんの場合は9時ごろからTPP大筋合意というこれまた重要な記者会見もあったわけで,そちらが落ち着いてからの祝電でも良かったのではないだろうか?

余談ですけど,下村氏のあとは馳氏が文部科学大臣就任だそうで。鈴木大地スポーツ庁長官と並んでマッスル系がそろい踏み。

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2015.09.24

言葉は増えるよどこまでも:スコットランド語では雪に関連する単語が421もある件

にわかに興味を持ってラグビーワールドカップ見たんだけど,日本はスコットランドに大敗。この間の南ア戦はまぐれだったのだろうか?

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それはさておき,ガーディアン紙によると,スコットランド語には421もの雪に関する単語があるという。

グラスゴー大学のプロジェクト"Historical Thesaurus of Scots"で明らかになった。

"Whiteout: new Scottish thesaurus has 421 words for snow" (by Alison Flood, the guardian, Sep. 23, 2015)

たしか,イヌイットには雪に関する単語が50以上あるとかいう話(それは都市伝説という説もある。下記参照)だが,スコットランド語はそれをはるかにしのぐ語彙を有しているというわけである。

正確には雪に関する類語(thesaurus)の数だから,同じものを指す別の表現もあったり,古語もあったり,物としての雪の単語もあったり,現象・気象としての雪の単語もあったり,ということだろうから,雪を421通りに分類しているわけではない。

具体例としてガーディアン紙では次のようなものを取り上げている:

  • snaw: 雪
  • sneesl: 雪が降り始める
  • skelf: 大きな雪片
  • feefle: 雪が隅で舞う
  • flindrikin: ちょっと雪が降っている状態
  • spitters: 風に飛ばされる小さな雪片
  • snaw-pouther: 細かな風雪

ちなみに,"Historical Thesaurus of Scots"では気象とスポーツに関する言葉を集めている。というのもスコットランド人の会話は天気かスポーツの話で始まるからだという。

ちなみに,スポーツの中で最も類語が多く収集されたのはフットボールでもゴルフでもなく,「おはじき」だったということ。「おはじき」関連語は369もあるとか。


◆   ◆   ◆


イヌイットには雪に関する単語が50以上あるとかいう都市伝説(?)

雪とイヌイットの結びつきの強さを示す例として,「イヌイットには雪に関する単語が50以上ある」という話がまことしやかに伝えられている。小生も何度か目にしたことがある。

しかし,この話は都市伝説であるとGeoffrey Pullumというエディンバラ大の英語学者が1991年に書いている:

"The Great Eskimo Vocabulary Hoax"

この論説ではイヌイット(エスキモー)の雪に関する単語数が増加する経緯が次のように示されている。

Franz Boasが1911年に出版した"The Handbook of North American Indians"の中で,雪に関する単語が4つ紹介されているのが最初。

それをアマチュア言語研究家Benjamin Lee WhorfがMITの広報誌に寄せた記事"Science and linguistics"の中で引用した際,イヌイットの雪に関する単語が7つ以上あるかのように紹介したのが次の段階。

このあと,様々な文献の中でイヌイットの雪に関する単語数は変動し続ける:

  • Roger Brown "Words and Things"(1958): 3
  • Carol Eastman "Aspects of Language and Culture"(1975): many
  • Lanford Wilson "The fifth of July"(1978): 50
  • New York Times (Feb. 9, 1984): 100
  • Cleveland TV weather forecast (1984): 200
  • New York Times (Feb. 9, 1988): four dozen = 48

ということで,Geoffrey Pullumによって,「イヌイットには雪に関する単語が50以上ある」という話は根拠の乏しい都市伝説であると批判された。

ところがその後,やっぱり「イヌイットには雪に関する単語が50以上ある」という話が出てくる:

"There really are 50 Eskimo words for 'snow'"(by David Robson, The Washington Post, Jan. 14, 2013)

これは,"New Scientist"誌の記事がワシントンポストに転載されたものである。

この記事では,イヌイットとともに「エスキモー」と総称されているユピク(Yupik)という民族グループには40の雪に関する言葉が,また,カナダのイヌイットのグループでは53の雪に関する言葉があるということが紹介されている。また,サーミ人には少なくとも180もの雪氷に関する単語があることも紹介されている。

ということで,「イヌイットには雪に関する単語が50以上ある」という説は一時的には都市伝説扱いを受けたものの,最新の研究成果によって復活した,といえる状況にある。


◆   ◆   ◆


だが,ここで疑問が一つ。違う言語グループで単語の数を競うのは意味があるのだろうか?ということ。

ヨーロッパの言語の多くは「屈折語」である。そのうちの英語なんかはほとんど「孤立語」と化している。まあ,屈折語にせよ,孤立語にせよ,単語と単語とが明確に分かれている。

これに対し,イヌイットやユピクの言語は「抱合語(複総合的言語, Polysynthetic language)」と呼ばれる。簡単に言うと,1単語で1つの文章を表現するような言語である。

イヌイットには雪に関する単語が50以上あるのが事実としても,それは,他の言語において単語同士をくっつけて作った複合語に比すべきではなかろうか?

複合語で良ければ,日本語だって多く雪に関する言葉を準備することができる。

例えば,"Weblio"の「雪 - 気象 - 気象 - 同じ種類の言葉」には雪に関する90以上の言葉が並んでいる。こんな風に:

「雪,時々にわか雪,残る雪,帷子雪,弱い雪,圧雪,万年雪,霧雪,年の雪,晴雪,・・・・」

ここにはないが,「細雪(ささめゆき)」だって雪に関する表現である。日本語は造語力がすごいので,思いついたらまだまだ用意できる。

複総合的言語でないスコットランド語で421もの雪に関する単語がある,というのはやはりすごいことである。

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2015.08.01

「きぼう」/国際宇宙ステーション(ISS)を見た件

昨晩(7月31日),うちのツマが「夜8時半ぐらいに国際宇宙ステーションが見られる」と言ったので,夫婦そろって庭に出て観察した。

そうしたら,マイナス1~2等星ぐらいの明るさの物体が,飛行機が移動するぐらいの速度で南の空から東の空に飛び去るのが見えた。

下の図は7月31日8時半ぐらいの国際宇宙ステーションの軌道。全国的に見やすい状況だったのがわかる。

Kibo

(JAXA 宇宙航空研究開発機構ウェブページ「『きぼう』を見よう」より)

ちなみにJAXAのサイトには「『きぼう』/ISSを写真に撮ろう!」というコーナーがあるのだが,常連たちの写真がすごい。単なる光点として撮影しているのではなく,長時間露光で軌道を捕らえたり,超望遠レンズでISSの姿を捕らえたり,ものすごく凝っている。

興味をお持ちの方には「皆様から送っていただいた『きぼう』の写真」のページをご覧いただきたく。


【追伸】

ちなみに国際宇宙ステーションは2016年に廃棄という話があった(参考)。来年でお払い箱かと思ったら,2024年までの使用延長というホワイトハウスからの声明も出ている:

"Obama Administration Extends International Space Station until at Least 2024" (the White House, January 08, 2014)

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2015.06.05

反知性主義の凱歌

内田樹先生の憂えた通り(「コンビニ化する大学と知性の危機について」,「国立大学改革亡国論『文系学部廃止』は天下の愚策」)になりつつありますよ。

政府,職業訓練専用の高等教育機関設立方針 4年後にも開校」(2015年6月4日,産経ニュース)

日本がよく手本にするアメリカなんか実は教養と学歴が重視される社会で,某ビジネススクールを出ないと某業界に入れなかったりと,社会における大学の価値が重要視されている。社会システムに大学がエンベッド/インプルメントされている。大学の卒業証書はギルドに参加するための必須アイテムなのである。

日本の大学人はこういう枠組みを構成するのに失敗した。故に大学不要論の潮流へと飲み込まれてしまうのだ。

日本では反知性主義が凱歌をあげつつある。

しかし,日本の大学人にとって活路はないわけではない。新興国では今後数十年間,高等教育需要が存在し続ける。南に道は開かれている。

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2015.01.29

天野先生がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!

2014年のノーベル物理学賞受賞者の天野浩先生が宇部にやってくるというので,講演を見に行った。

Profamano0

場所は山口大学常盤キャンパス。天野先生のご講演は山口大学創基200周年記念行事という位置づけである。講演は午後2時45分から午後4時半までの105分で,2時には会場の前に長蛇の列ができていた。

講演内容はおよそ3つに分かれていて,

  • 11月の受賞決定の発表から今日に至るまでの忙しい日々の話
  • 今回受賞に至った研究の内容
  • 今後の研究の展開と省エネルギーへの貢献

といったことが話された。最後に,今回,天野先生がノーベル賞を受賞することになった研究成果は天野先生が20代のときのものなので,若い研究者の方々も頑張ってくださいというメッセージで講演が締めくくられた。

面白かったのは,受賞決定後,スウェーデンのテレビの取材で酷い目に遭ったという話。疲れて熱が出て大変だったのにもかかわらず,天野先生の日常を撮影したいというスウェーデンのテレビ局の希望で,無理やりジョギングさせられ,撮影されたということである。

天野先生が青色LEDの研究を始めることになるのは,学生の頃に,ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズといったスーパースターが登場してパーソナル・コンピュータの世界が興隆しはじめたので,なにかこの分野に貢献したいと思ったことがきっかけだそうである。しかし,当時名古屋大学にはコンピュータの素子に関する研究領域がなかったので,コンピュータ・ディスプレーの分野で役に立ちそうな青色LEDの研究に加わることにしたという。

あと,赤崎先生と天野先生の研究成果は特許化されたものの,それを迂回する形で中村修二氏の発明が行われ特許化されたという話も出た。知財戦術上,面白い話題である。だが,ちょっとマニアックで一般受けしない話かもしれない。

講演後に会場の一般の聴衆から「天野先生の研究成果には偶然に助けられた要素があるのでは」というコメントが寄せられた。これに対して,天野先生が「ノーベル賞の対象となった研究成果には偶然の要素もあるが,いろいろと最大限,頭を使いながら莫大な量の試行錯誤を重ねた結果えられた成果であることを理解してほしい」という回答があったことも記しておきたい。天野先生が見せた学者としての矜持である。


講演後,同僚T博士と出待ちしていたら天野先生の御近影を移すことができたので,ご紹介したい:

Profamano_3

上の写真はT博士ご提供のもの。
小生は天野先生が送迎の車に乗り込むところを撮ったがイマイチ:

Profamano2


ちなみに,なぜ,天野先生が山口大学に来たかというと,山口大学が白色LEDの研究拠点で,天野先生のGaN(窒化ガリウム,ガリウムナイトライド)の研究の一翼を担っているからである。

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2015.01.07

世界初の浮体式潮流・風力ハイブリッド発電 (skwid),悪天候で沈没

世界初の「浮体式潮流・風力ハイブリッド発電」として話題を呼んでいた三井海洋開発株式会社の"skwid"だが,唐津沖で沈没したとのこと:

洋上発電装置,海底に沈む…実証実験中あえなく」(読売新聞,2015年1月7日)

上半分がダリウス型風車で,下半分がサボニウス型水車というダブル発電システムで,面白い装置だと思ったのだが,12月18日朝に行方不明になったということである。その後,沈没が確認された。12月17日には同地域が暴風雪に見舞われていた。

この装置は一昨年の第一次設置時にも災難に見舞われた。本ブログで過去に取り上げたことがある:

世界初の浮体式潮流・風力ハイブリッド発電 (skwid),水車紛失により落成式延期」(2013年10月14日)

同記事にも書いたが,日本で再生可能エネルギーを普及させようとする場合に直面するのが,日本の気候の厳しさ。

とくに風力発電・波力発電に関しては台風や雷や雪などが問題である。ヨーロッパで風力発電が盛んな理由としては,台風が来ないことが挙げられる。しかし,日本の場合は風車,水車はつねに過酷な気象条件にさらされる。

2013年に発生した曳航中の"skwid"が水車を紛失した事件について,過去記事で

「今回の事件は設置前の回航中に発生したものだが,設置できたとしても同じようなリスクがあるだろう。

と述べたが,あたかも予言したかのような結果となった。

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