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2026.09.30

秋道智彌『海の人類学』読了

法蔵館から2026年8月に出た秋道智彌著『海の人類学 人新世を問う』 (法蔵館文庫)を読んだ。

過去に出版された名著を取り上げることが多い法蔵館文庫としては珍しく,これは描きおろしの書籍である。

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「人新世」という言葉は人口に膾炙しているものの,地質学的には未確定の概念だということが初めに指摘されている。

そもそもいつ始まったのかも未定。ある人は産業革命からスタートしたと言い,ある人は核実験や公害が激しくなった時期を踏まえて1950年代からスタートしたと言う。

著者がとくに強く指摘しているのは,人新世という概念においては陸上での人類の活動に関心を寄せているものの,海洋と人類の繋がりについては着目していないという点である。

「あえていえば,海を軽視する唯物史観が支配的であり,今日の状況にはまったくそぐわない。斎藤幸平も『人新世の資本論』で海について語ることはなかった」(47~48ページ)

そして,建設的批判として,海からの視点ビッグヒストリー(海洋史,人類史,文明史)と未来の展望を語るわけである。

一冊の本に莫大な情報を詰め込みすぎているという気がするものの(あと,急いで書きすぎているような気がするものの),陸上の出来事にばかり気をとられていた老生としては目から鱗が落ちるような気がした。

消化不良に陥りそうな莫大な情報としては,以下のような大量の概念の紹介がある:

大加速期(The Great Acceleration),資本新世(Capitalocene),プランテーション新世(Plantationocene),ポルトガル熱帯主義(Lusotropicalism),クトゥルー新世(Chthulucene),ハイシャン(Hycean)惑星,気候正義(Climate Justice),IUU(illegal, unreported, unregulated)漁業,幽霊漁具(ghost gear),五大環流(gyre),生きている地球指数(LPI: living planetary index),惑星の限界論(planetary boundary),最大持続生産量(MSY: Maximum Sustanable Yield),適正生産量(OY: Optimal Yield),共生(ともいき/ぐしょう),「願共諸衆生往生安楽国」,「自他法界同利益・共生極楽成仏道」,テトラレンマ(tetralemma),トラジェクション(trajection=通態化),チッピングポイント,垂直統御(vertical control),双分制度(moiety),分水木,縦灌漑・横灌漑,トリ・ヒタ・カラナ,ターセ・ホモウ,生態移民,退耕環林,バーチャルウォーター,コロンブス交換,海洋自由論(Mare Liberum),海洋閉鎖論(Mare Clausum),越境入漁,地域海(regional seas),海洋共同体,マカロネシア(Macaronesia),海洋生態区(Marine Ecoregion),コーラル・トライアングル,気候難民,海洋酸性化,海洋熱波(Marine Heat Waves),バラスト水問題,海洋保護区(Marine Protected Areas),TEU(Twenty-foot Equivalent Units),フード・マイレージ(food mileage),生態系サービス(ecosystem stervices)

これらの概念一つ一つを理解するためには,相当な量の説明と理解する時間が必要なはずだが,著者は怒涛の勢いで海の人類学を展開する。これが,先ほど述べたような,急いで書きすぎという感想に繋がっている。

とはいえ,この本を起点として,従来の人新世や環境問題の議論に建設的批判を加えていくことが読者に課せられた宿題だと考えれば納得がいく。

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