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2023.01.04

杉山正明『興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後』を読む

先日,極寒のモンゴルに出張して以来,個人的にモンゴルブームが起こっているため,この正月は杉山正明先生の『興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後』を読んでいる。

ユーラシアの東西に広がっていたモンゴル帝国の歴史は1368年の大都放棄で終わったような気がするが,それは錯覚で,ゆっくりと解体しつつ,その影響は,明朝・清朝,ロシア帝国,ディムール→ムガル帝国へと近現代まで続いていたのだ,というのが著者の見解である。

なにしろモンゴル帝国の末裔たるブハラ・ハン国とヒヴァ・ハン国が滅亡したのが1920年。まさしく「長いその後」である。

本書にはモンゴル帝国の拡大プロセス,ロシアや中東への影響などが簡潔に記されていて面白いのだが,なによりも面白いのが,西欧やロシアの歴史観をボロクソにけなしていること。

杉山節を味わうために,例えば,モンゴルのルーシ侵攻のあたりを引いてみよう:

「1238年1月20日,モスクワを降した。なお,この時のモスクワは,ごくささやかな木塞の小辺堡にすぎず,人間もはたしてどれほどいたのか,あるいはほとんどいなかったのか。ところが,この攻略をもって,モンゴルは破壊と虐殺の限りを尽くしたとよくいわれる。これに限らず,多くはロシア人の史家によって,昔から今にいたるまで情熱的に語られるこの手の叙述を目にするとき,歴史とは何かの想いはもだしがたくなる。」(159頁)

「ロシア人史家たちの愛国主義は,かなりはげしい。そして,おおむねはロシアのことだけを見つめがちであり,あまり他の要素・状況・データを気にしない。率直にいって,やや歴史的センスに欠ける。結果として,彼らの主張は,妥当さと説得力を欠くことが多い。」(163~164頁)

「13世紀当時のルーシ年代記はきわめて数少なく,かつはモンゴルの破壊・虐殺もほとんど語らない。ところが,時代がくだるにしたがって,ルーシの被害はどんどん『立派』となり,モンゴルは神がくだした天魔として巨大成長してゆく。そうすることに意味があり,そのほうが嬉しかったのである。」(164頁)

西欧の史家への批判については本書をお読みいただくことにして,とにかくロシアでは,昔から今にいたるまで,歴史学はプロパガンダから逃れられないのだなぁ,と思った次第。

 

なお,杉山先生は2020年に逝去。

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