ウォーラーステインが示した資本主義の今後の見通し
『史的システムとしての資本主義』(川北稔訳)の第2部「資本主義の文明」には,ウォーラーステインによる資本主義の今後の見通しが示されている。
あくまでも1995年時点のウォーラーステインの見地からの発言だが,「資本主義の文明は,その秋を迎えている」(225頁)。つまり資本主義は実り多い段階に達したものの,終焉もまた近づいているというわけだ。
史的システムとしての資本主義は,資本蓄積という特性を持ち,この資本蓄積が社会・経済・政治・文化の各面において様々な矛盾を引き起こすため,やがては終焉を迎え,別のシステムに移行せざるを得ないということである。
資本主義が進展するに従い,その成果を享受できる者と全く享受できない者との分極化が進んでいる。
この分極化は一つの国の中にも見られるし,国と国との間(インターステートシステム)にも見られる。
国と国との間の分極化は南北問題と称される。
いつまでも繁栄を享受できない「南」の人々は,その状況を脱するためにどのような行動を選択するのだろうか。
ウォーラーステインが示したのは次の3つのである:
- ホメイニの選択
- サダム・フセインの選択
- 「ボートピープル」の選択
ホメイニの選択とは,根本的な他者性の培養,つまり,資本主義システムを拒絶することである。
サダム・フセインの選択とは,効果的な武力を持った大きなユニットの政体を構成し,「北」に対抗することである。
「ボートピープル」の選択とは,境界を超えること,つまり「南」から「北」への移民である。
「南」の人々はこれらの行動を採ることによって,史的システムとしての資本主義を揺さぶっているのだ。
今,起きているウクライナ危機というのは2番目のサダム・フセインの選択に当たるのではないかと老生は思っている。
地理的にはロシアは北の国だが,資本主義システムの中では資源供給国であり,発展途上国,つまり「南」の位置づけにある。
その地位からの脱出のため,武力による新秩序の構成を図っているのが現在の状況だというように見ることができる。
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