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2022.06.28

植草甚一『探偵小説のたのしみ』を読む

引き続き植草甚一の本の話。

こんどは『探偵小説のたのしみ』。

手元にあるのは1979年8月に出た初版本だが,その後2005年に再刊され,いまではKindleで読める。

当然,紹介されているのは古い推理小説ばかり。

時代を感じるのがこんな文章である:

「ジョン・ビンガムが褒めているイギリスの新人ジョン・ル・カレの『死者にかかってきた電話』はどうかな。」(『探偵小説のたのしみ』,37頁)

ジョン・ル・カレといえば2020年12月に89歳で亡くなった,スパイ小説の大家。だが,J・J氏がこの文章を「宝石」に書いたのは1962年なのだから,当然ル・カレは新人である。

 

古い小説ばかり紹介されているとは言ったものの,J・J氏の紹介の仕方が面白くて,どれも読みたい気持ちが高まってくる。

たとえば「ベルンハルト・ボルゲとアンリ・トマ」(69~84頁)という一文では,そのタイトル通り,ベルンハルト・ボルゲ(Bernhard Borge)とアンリ・トマ(Henri Thomas)という二人の作家が紹介されている。

どちらも日本では当時も今もあまり知られていない。Wikipedia日本語版にも記事が無い。ちなみにJ・J氏もボルゲについては「半年ぐらいまで,すこしも知らなかった」(69頁)と言っているぐらいである。

だが,こうしたあまり知られていない作家を掘り出して紹介するのがJ・J氏の仕事である。

ここではベルンハルト・ボルゲの『青い湖水の死』とアンリ・トマの『ジョン・パーキンス』が取り上げられている。

どんな感じの小説なのか,というのを老生が書くわけにはいかないので,そこはJ・J氏の見事な語り口を直接味わってほしい。

(前者は森のほとりの湖水で連続して起こる投身自殺の謎についての小説,後者はジョンとパディという夫婦がいて,パディがコカ・コーラを飲んだとたんに死んでしまうという小説,ということだけ書いておく)

これらの本,J・J氏に煽られて,読みたくなってきたのだが,残念ながら邦訳が無い。

とりあえず,英訳版の『青い湖水の死』だけでも入手して読もうか:

ちなみにベルンハルト・ボルゲはペンネームであって,本名はJarl André Bjerkeである。英訳版はAndré Bjerkeの名で出ている。André Bjerkeの父親もEjlert Bjerkeという作家だったらしい。

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