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2021.12.10

『学術出版の来た道』を読む

有田正規『学術出版の来た道』(岩波書店)を読んでいるところである。

学術出版というのは特殊な世界で,研究者たちのインフラストラクチャーの一つである。一般の読者もいないわけではないが基本的には,研究者たちだけが執筆者となり,研究者たちだけが読者となっている。

"Publish or Perish"という言葉があり,研究者が研究者として生存するためには,研究成果を公表し続けなくてはならない。公表先はどこでも良いかというとそうではなく,一定の評価を受けた学術誌で公表しなくてはいけない。

学術誌,通称ジャーナルは,学会あるいは学術出版社が発行しているが,どんな論文でも掲載されるわけではなく,審査(レフェリー制)あるいは査読(ピアレビュー制)(日本では両方まとめて査読という)をパスしないと掲載されない。

そして今,学術誌の覇権を握っているのは各種学会ではなく,少数の学術出版社である。

そうした学術出版社の成り立ちを解説してくれるのがこの本である。研究者でも知らないことばかり教えてくれる。

豆知識も豊富で,例えば,

  • 世界初の学術誌は"Journal des Scavans"
  • ピアレビューは1970年代から広まった(歴史が浅い)
  • アインシュタインの論文は査読を経ていないものばかり

というようなトリビアが散りばめられている。

学術出版社の覇権によって生じた様々な弊害(例えば費用面:百万円を超えるネイチャー誌のオープンアクセス費用を負担できる研究者は限られているし,大学図書館向け学術誌一式の購入費用は年間数千万円から数億円。)を乗り越え,今後研究者コミュニティがどう振る舞うべきかという課題が最後に提示されている。

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