『安彦良和 マイ・バック・ページズ』よりぬき発言集
ここ数年,安彦良和氏に関する書籍が次々に上梓されているし,つい先日放送された「浦沢直樹の漫勉neo」でも同氏が密着取材の対象となっていた。
ということで,画業半世紀を超える漫画家・アニメーターが今,注目を浴びている。
昨年末に上梓された安彦良和・石井誠『安彦良和 マイ・バック・ページズ』を読み終わったところだが,面白い。
安彦良和氏が石井誠氏を相手に,これまでに関わった作品の制作動機・意図・状況など,仕事の裏側を語りつくしている。取材期間1年半,取材時間30時間,500頁超の大著。
面白かったところを同書から少しだけ引用してみる。
<アニメからの引き際を考え始めた頃の話>
「ゴーグショック」と言っているけど,実は「ナウシカショック」でもあったんだよね。あれにはどうやっても勝てないよと。
<中略>
『風の谷のナウシカ』や『未来少年コナン』あたりの迫力,パワーはすごい。だから,『アリオン』の時はあれを見せられていたから,「その後にアニメ映画を作るなんてもうダメだ」って思っていた状況だったんだよね。
(「III アニメ界の潮流の変化とアニメからの引き際」154~155頁)
アニメ業界に自分の居場所がないという感じだね。あの頃の状態はかなり厳しかった。
(「III アニメ界の潮流の変化とアニメからの引き際」167頁)
<作品の作り方について>
よく言っているんだけど,俺の漫画は「流される」というか,なるようになるというタイプの描き方がわりと好きなんだよね。それが「主体性がない」とよく言われる理由にもなるんだけど,物語の作り方としては好きだというね。
(「V キリスト教を題材とした西洋史とオールカラー作品への挑戦」310頁)
<『王道の狗』の舞台が北海道だった頃の話>
以前から漫画に北海道を出したいという思いはあったね。ただ実際に描きはじめてみると編集さんはあまりいい顔をしてなくて。
<中略>
北海道は僻地だし,仕方ないな~って当時は思っていたんだけど,今は『ゴールデンカムイ』とかが当たっているでしょ? 北海道が舞台でも当たるじゃねえかって。今さらながら「おかしいなあ」と思っていたりしている(笑)。
(「VI 漫画家としての新たなステップへ」318頁)
<『アレクサンドロス』執筆の動機>
『アレクサンドロス』は,NHKの「文明の道プロジェクト」というのがあって,NHKスペシャルと連動する形で漫画を描いてほしいという話があったんだよね。
当時は『THE ORIGIN』をひたすら描いている時だったから,そこにちょっと他の連載を入れるのがきついタイミングだったんだけど, <中略> ただ,その時に星野之宣さんがモンゴルを舞台にした『クビライ』を描くという話を聞いて。星野さんは個人的に尊敬している人だったし,「星野さんとおふたりで」って並べられると弱い(笑)。つい乗せられて引き受けてしまったんだよね。
(「VI 漫画家としての新たなステップへ」351頁)
<古代史シリーズについて>
古代史シリーズに関しては『ヤマトタケル』で完結した。完全にそういう感じだね。あとは,実在の歴史の時代に入っていくから,俺の関心事はこの先にはありません。
(「VIII 古代史,近代史,時代劇での新たなる挑戦」452頁)
『ゴールデンカムイ』への言及など(ここでは引用しなかったが『最終兵器彼女』とか『げんしけん』にも触れている),話題作も読んでおり,根っからの漫画ファンであることもよくわかる(「ガルパン」に嵌った池上遼一先生,「艦これ」に嵌ッた小池一夫せンせいほどではない)。
また,同じ北海道出身の星野之宣への共感というか憧憬も垣間見られて面白い。
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