中村明珍『ダンス・イン・ザ・ファーム』を読む
周防大島に住む中村明珍(農家・僧侶・ミュージシャン・その他)氏が書いた本『ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろ』を読んでいる。今年の春,独特の本づくりで名高いミシマ社から上梓された。
まえがきに「とにかく心が動いたことを人とシェアするのが昔から喜びなので,一緒に楽しんでもらえたらうれしいです。よかったら。」と書いてある通り,読んでいて楽しい本である。
いろいろと苦労がありつつも,日々新しい事を発見し,充実して暮らしている明珍氏。周防大島に生きる農家としての,僧侶としての,そしてミュージシャンとしての体験談はどれも面白い。
この本の始めの方では,2018年8月の幼児行方不明事件(スーパー・ボランティア尾畠春夫さんが解決したアレ)や,同じく2018年の「大阪・富田林署逃走事件」など,島で起こった大事件と,それらに対する島の人々の反応が取り上げられていて,掴みはバッチリ。
とくに後者の事件のせいで,周防大島の道の駅「サザンセトとうわ」が自転車で日本一周を目指す人々のメッカになり,「カツとじ定食」が名物になってしまったあたり,釈然としない部分はありつつも面白い出来事ではある。
そうそう。2018年にはもう一つ大事件があった。
2018年10月22日,山口県柳井市と周防大島町を結ぶ大島大橋の橋桁に貨物船エルナ・オルデンドルフ号が衝突したのだった。これによって大橋に設置されていた水道管と通信ケーブルが破損。周防大島全島が一月にわたって断水する羽目になった。
この時の人々の暮らしを描いた第4章「断水 inda house」は,安定しているかのように見える日常生活は実は常に危地に置かれていること,そして危機における個人間ネットワークは強靭であること,こういった大事なことを伝える体験記になっていて,日本人ヒツ読。
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