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2021.03.29

英語発達史|古英語 (Old English) その1

アングロ・サクソン人登場

400年代,衰亡したローマ帝国はブリテン島から撤退。そしてゲルマン系部族のアングル人 (Angles),サクソン人 (Saxons),ジュート人 (Jutes)たちがユトランド半島からブリテン諸島に押し寄せてきた。

これらの人々を総称してアングロ・サクソン人という。アングロ・サクソン人の使っていた言葉がやがて古英語となる。

アングル人たちの出身地はユトランド半島南部,アンゲルン半島である。ブリテン島に渡ってからは,イーストアングリア,マーシア,ノーサンブリアに住んだ。

サクソン人たちの出身地はユトランド半島の付け根,北ドイツ低地,現在のニーダーザクセン地方である。ブリテン島に渡ってからは,エセックス,サセックス,ウェセックスに住んだ。

ジュート人たちの出身地はジュートランド半島,つまりユトランド半島北部である。ブリテン諸島に渡ってからはケントとワイト島に住んだ。

彼らアングロ・サクソン人がユトランド半島からブリテン諸島に渡ってきたのは,スカンジナビア半島からデーン人 (Danes)たちがユトランド半島に押し寄せてきたからである。つまり民族移動の玉突き現象。

Anglosaxon

↑ユトランド半島からブリテン諸島への進出(白地図は白地図専門店freemap.jpから入手)

 

アングロ・サクソン人とブリトン人の戦い

ブリテン諸島に渡ってきたアングロ・サクソン人は先住民であるケルト系ブリトン人と戦った。戦いは100年以上続いた。

この時代を舞台とする伝説がアーサー王物語である。アーサーはブリテンの王であり,サクソン人を撃退したとされる。

しかし結局,ブリテン島南部の広い範囲はアングロ・サクソン人たちの手中に納まり,ケルト系ブリトン人たちは,ウェールズ,コーンウォール,スコットランドへと追いやられた。

ついでながら,カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』(参照)もまたこの時代を舞台とする物語である。ブリトン人老夫婦が旅の途中でアングロ・サクソン人の孤児や騎士と一緒になる。いずれこの孤児や騎士の部族によってブリトン人は駆逐される運命にあるのだが…。

アングロ・サクソン人たちはブリトン人たちをwealas,つまり異国人と呼んだ。この単語は後にWalesとなる。

ブリトン人たちはアングロ・サクソン人たちを,初めはSaxonsと呼び,続いてAnglesと呼んだ。Anglesが住む土地はAngliaと呼ばれ,それがEngle, Englisc, Englalandと変化し,今ではEnglandとなっている。

 

アルフレッド大王と古英語

アングロ・サクソン人たちはイングランドに7つの王国を築き,互いに覇を競い続けた。

7王国の名は次の通りである:

  • ノーサンブリア王国 (Northumbria): アングル人
  • マーシア王国 (Mercia): アングル人
  • イースト・アングリア王国 (East Anglia): アングル人
  • エセックス王国 (Essex): サクソン人
  • ウェセックス王国 (Wessex): サクソン人
  • ケント王国 (Kent): ジュート人
  • サセックス王国 (Sussex): サクソン人

Anglosaxon2

サクソン系の国々の名前はいずれも"...ssex"となっているが,サクソンの国という意味である。

"Essex"は"East Saxons","Sussex"は"South Saxons","Wessex"は"West Saxons"の略だと思えばわかりやすい。

これらがウェセックス王国によって統一されるのが,825年である。

イングランド統一が成った頃,ブリテン島には新たな侵略者が現れた。かつて,アングル人,サクソン人,ジュート人たちをユトランド半島から追い出したデーン人である。デーンという名前でわかるように,今のデンマーク人の祖先である。

デーン人の侵略に対抗したのが,ウェセックスの王,アルフレッド大王(在位:871~899年)である。アルフレッド大王はデーン人と和議を結び,イングランドに平和をもたらした。そして同時に,文化の振興に努め,アングロ・サクソン人の言語である古英語の文献の集大成を行った。

 

古英語の特徴

さて,ここで古英語の特徴を述べておく。

古英語は,ユトランド半島出身のゲルマン系部族の子孫の言語であるから,他の印欧語族の言語と同様に屈折語,つまり単語の語尾変化が起こる言語である。

名詞には男性・中性・女性の3種の性があり,また単数と複数の2つの形がある。

名詞の格は主格(主語)・対格(直接目的語)・与格(間接目的語)・属格(所有格)の4つ。実は具格(~によって)という格もあったのだが,これは徐々に消滅した。

現代英語の"dog"は古英語では"hund"である。ドイツ語と同じ。これは男性名詞であり次のように変化する。

  単数 複数
主格(~は) hund hundas
対格(~を) hund hundas
属格(~の) hundes hunda
与格(~に) hunde hunum

主格と対格が同じ形。

現代英語の"ship"は古英語では"scip"である。これは中性名詞であり,次のように変化する。

  単数 複数
主格 scip scipu
対格 scip scipu
属格 scipes scipa
与格 scipe scipum

これも主格と対格が同じ形。

現代英語の"gift"は古英語では"giefu"。これは女性名詞であり,次のように変化する。

  単数 複数
主格 giefu giefa
対格 giefe giefa / giefe
属格 giefe giefa
与格 giefe giefum

 

他にも何通りもの格変化があり,覚えるのが面倒なことこの上ない。

古英語の動詞は人称,単数・複数,時制等に応じて変化する。どのように変化するのかについては本記事では省略。

形容詞もまた手の込んだ変化をするのだが,これも面倒なので省略する。

英語がこの状態のままだったら世界中に広がらなかっただろうと思う。

 

<参考図書>

メルヴィン・ブラッグ『英語の冒険』(三川基好訳,講談社学術文庫,2008年)

Simon Winchester "The Meaning of Everything: The Story of the Oxford English Dictionary" (Oxford University Press, 2003年)

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