英語発達史|古英語 (Old English) その2
ヴァイキング,すなわちデーン人の襲来
8世紀からヴァイキングの一派,デーン人がイングランドに襲来するようになる。
既に述べたように,アングロ・サクソン人たち(そろそろイングランド人たちと呼んで良いだろう)の王,アルフレッド大王はデーン人と戦い,和議を結んだわけだが,その際,イングランドの一部をデーン人たちの居住地,デーンロウ (Danelaw, 古英語ではDena lagu)として認めた。
デーンロウはイングランドの広い部分を占めており,旧ノーサンブリア王国や旧イースト・アングリア王国などイングランド東部は全てデーン人たちのものとなっていた。
デーン人たちは繰り返しイングランドを襲撃し,そのたびに退去料デーンゲルド (Danegeld)を徴収した。"geld"は"gold",金(きん,かね)のことだから「デーン税」とでも言おうか。イングランド人たちは数年間の平和維持のために13~17トンもの銀を払う羽目になった。
11世紀の始め,イングランドのウェセックス家(アルフレッド大王もこの家)の王,エゼルレッド(無思慮王)は,デーンロウに住むデーン人たちを虐殺した。これが引き金となり,デンマーク王スヴェン1世によるイングランド遠征が始まる。
イングランド遠征はスヴェン1世の息子,クヌートに引き継がれ,最終的には,クヌートがイングランド王に即位すること(1016年)で完結する。以後,20年近く,イングランドはデーン人に支配される。
ここら辺の話は幸村誠のコミック『ヴィンランド・サガ(ブリテン編)』で描かれている。
クヌートはこのあと,1018年にデンマーク王位を,1028年にノルウェー王位を継承し,「北海帝国」を築き上げたが,1035年11月に死去した。
彼の帝国が崩壊した後,イングランドには再びウェセックス家が君臨することとなった。
しかしその支配力は弱く,イングランドは11世紀半ばにはフランス北部からやってきたノルマン人に支配されることとなる。
この事件(ノルマン・コンクエスト)により,古英語の時代は終焉を迎える。
デーン人たちが英語に与えた影響
さて,8世紀から11世紀にかけてデーン人たちがイングランドに襲来し,ついには支配者となったわけだが,この過程で,デーン人たちの言語,古ノルド語の語彙が英語の中に大量に入ってきた。
例えば,both, same, seem, get, give, they, theirなどは古ノルド語からの借用である。この他,skirt, sky, skill, skinなど,"sk"で始まるスカンジナビアっぽい言葉も古ノルド語からの借用である。
現代英語と古ノルド語の対比を示すと次のようになる:
- both báðir
- same same
- seem sœma
- get geta
- give gefa
- they þeir
- their þeirra
- skirt skyrta
- sky ský
- skill skil
- skin skinn
このリストに出てくる古ノルド語の"p"みたいな文字"þ"("p"と違って,縦棒が上に長めに突き抜けている)はソーン (thorn)と言って,"th"の発音を表す文字である。古英語では使われていたが,今は使わない。
このリストの単語の他,古ノルド語からの借用語で有名なものとしては"Thursday"がある。意味は「トール(Thor,『マイティ・ソー』に出てくる北欧の神ソーのことだ)の日」で,古ノルド語だと"Þorsdagr"となる。
<参考文献>
Simon Winchester "The Meaning of Everything: The Story of the Oxford English Dictionary" (Oxford University Press, 2003年)
"139 Old Norse Words That Invaded The English Language"(by John-Erik Jordan, Babbel Magazine, October 9, 2019)
"List of English words of Old Norse origin"(Wikipedia)
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