キム・ボラ監督『はちどり』を観た
ユリイカ五月号(参照)で取り上げられ,注目を集めていたキム・ボラ監督『はちどり』(2018)。
コロナ禍のせいでなかなかお目にかかれなかったが,ついに観ることができた。
1994年。金日成主席が逝去し、聖水大橋が崩落した年。ソウルの江南、テチ洞に住む中学二年生のウニを主人公とした映画。家庭、学校、塾などで起こるウニの個人的な事件を通して、当時の韓国社会を描いている。
登場人物たちの表情、室内・室外の風景、ポケベルやノートの落書きなどのアイテム、そういったものが細やかに撮影されているところに、計算し尽くされたセリフが絶妙なタイミングで挿入される。非常に丁寧に作られた作品である。
先に挙げたユリイカ五月号にキム・ボラ監督へのインタビューが掲載されているのだが、そこには中二の女の子を主人公とした意図が述べられている:
幼いころにちゃんとした経験をしたり、追体験することによって傷がきちんと癒されたりすることがなく、大人になっても心の中にずっと中学生の子がいる。そんな大人をよく見かけます。もちろん私もその一人かもしれません。ストレスを受け、心の状態が不安定なとき、子どものころの、治癒されていない問題へと回帰し、後戻りする。だから、私はこの時期をもう一度しっかり追体験して消化したかったんです。(ユリイカ2020年5月号、41ページ)
このインタビュー記事は秀逸で、映画を見ただけではわからなかった不思議なシーンについても解き明かしてくれる。
例えば、外出している母親を見かけたウニが母親に呼びかけたものの、母親が無反応だったシーン。これは家庭でも店でも働きづめの母親がようやく「母親という仮面を脱いで本当の顔になり、自分との対話をしている」(ユリイカ2020年5月号、45ページ)シーンなのだという。中二のウニにはそれがわからないが、いずれ母になったら分かるであろうとも。
父や兄が突然泣き出すシーンについても、その演出の意図を解き明かしてくれるのだが、それについてはインタビュー記事を読んでいただくことにする。
韓国社会独特のことも描かれている一方で、世界共通の中二体験も描かれていて、だから広く世界で評価される作品になっているのであろう。
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