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2020.09.23

コロナ禍のもと、カレル・チャペック『白い病』を読む

岩波文庫、すごいタイミングでぶつけてきた。

今月上梓された、カレル・チャペックの戯曲『白い病』(阿部賢一訳)のことである。

新型コロナウイルス感染症が広がる中、カミュ『ペスト』や小松左京『復活の日』が注目を集めたが、この列に『白い病』が加わったのである。

皮膚に白い斑点が生じ、肉体が腐り、やがて死に至るという「白い病」が世界中に広がる。治療法は確立されていない。

若い世代は感染せず、50代以降が感染するというあたり、新型コロナウイルス感染症を暗示させるのだが、この作品、1937年のものだから驚きである。

しかも、この病気、最初の症例は中国で記録されたというのだから、チャペックは予言者かと思う。

 

先程、治療法は確立されていないと書いたが、突如、治療法を見出したという医師ガレーン博士が現れる。実際、その治療法は効果を顕すのだが、ガレーンは、ある条件が守られない限り、決して患者を治療しない。その条件とは「平和」である。

軍需産業のトップや軍人あがりの独裁者がガレーンに対して治療に当たるよう要請するのだが、ガレーンは条件を盾に要請に応じようとしない。さて人類、というか大人たちは救われるのだろうか?

最後の最後に意外な結末が待っている。

 

白い病の蔓延だけに着目するとまるで予言のようだ。

しかし、この作品はチャペックが未来視して書いた予言書ではない。

本作品で最も恐ろしいのは、白い病でもなく、治療法を独占する医師でもなく、為政者でもなく、不確かな情報に踊らされる民衆である。

現代社会はチャペックの時代から変化していない、ということを伝えているのだ。

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