ブコウスキー『詩人と女たち』を読む
先に読んだ『勝手に生きろ!』はブコウスキーの分身,ヘンリー・チナスキー20代の物語だったが,『詩人と女たち』は一応,作家・詩人として功成り遂げたチナスキー50代の物語である。
あいかわらず「みもふたもない」小説だが,歳を取って酒と女性関係へのだらしなさが強化された。つまりダメ人間度がパワーアップ。
93章では感謝祭に女性たちとの逢瀬のダブルブッキングをしてしまい,思い悩んで泥酔して号泣するというヒデー有様。
この本,全部で104章,500ページ余りの長編なのだが,1章当たりのページ数が後になるほど長くなっていることに気がついた。
10章ごとに平均値を取った結果を示す:
初め(リディアとつきあっていたあたり)は1章平均5ページ程度なのだが,リディアとの仲が悪くなるにつれだんだんと短くなり,41~50章では1章平均2.3ページという有様。その後,ページ数は増していって,91~100章あたりは1章平均10ページを超えるようになる。
一応フィクションだが,実際の生活が反映されていて,その時の心境の変化がページ数に現れているのだろうか?
くだらない&だらしない話がだらだらと続くのだが,面白い。
ときどきまともな考察が登場する:
「わたしはボトルを手にして自分の寝室に向かった。服を脱いでパンツ一枚になり,ベッドに入った。すべてが調和とはほど遠い。人はそれが何であれ,目の前のものにがむしゃらにしがみつく。共産主義,健康食品,禅,サーフィン,バレエ,催眠術,グループ・エンカウンター,乱交パーティ,自転車乗り,ハーブ,カトリック教,ウェイト・リフティング,旅行,蟄居,菜食主義,インド,絵画,創作,彫刻,作曲,指揮,バックパッキング,ヨガ,性交,ギャンブル,酒,盛り場漫歩,フローズン・ヨーグルト,ベートーヴェン,バッハ,仏陀,キリスト,超越瞑想法,ヘロイン,人参ジュース,自殺,手作りのスーツ,ジェット旅行,ニューヨーク・シティ。そしてすべてはばらばらになって消え去ってしまう。人は死を待つ間,何かすることを見つけなければならない。選べるというのはなかなかいいことだと思う。
わたしも自分が何をしたいのか選んだ。ウォツカの五分の一ガロン壜をつかんでそのままラッパ飲みした。ロシア人だってわかっていたのだ。」(『詩人と女たち』305~306ページ)
ちょっとした考察をした後で、結局飲んでしまうのである。
チナスキーはまじめに自堕落な生活を続けている。だから目を離せない。
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