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2020.08.13

ブコウスキー『勝手に生きろ!』を読む

暑くて何もする気が起こらない。そんな中で読むブコウスキー『勝手に生きろ!』(河出文庫、都甲幸治訳)は格別だ。

訳者が言う通り、「みもふたもない」小説。著者ブコウスキーの分身であるヘンリー・チナスキーの言動が低俗で素晴らしい。

例えば、職を求めてタイムズ社に行った帰り道の描写なんかサイテーでサイコー。

暑い夏の日だった。汗が出て、体が痒くなってきた。股が痒かった。おれは搔きはじめた。耐えきれないほど痒くなった。掻きながら歩いた。おれは新聞記者にもなれない、作家にもなれない、いい女ともつき合えない。おれができることと言ったら、猿みたいに掻きながら歩くことだ。(176頁)

 

仕事に就いては、飲酒や怠業ですぐにクビになる。その繰り返しが小説の最初から最後まで続く。見習うべきところはゼロだが、目を離せない。

破滅的な行動を続けている一方で、チナスキーは自分のことをこう分析している:

おれはそんなに熱心じゃなかった。おれとしては、上司や上司にチクるヤツの目を避けて何もせず、ただ歩き回っているつもりだった。おれはそんなに利口じゃない。とにかく、直観に頼っているだけだ。いつもどうせすぐ辞めるか、それともクビになるだろうと思いつつ働きはじめたから、自然にリラックスした態度になって、それが知性とか、なにやら秘密の力みたいに誤解されたのだ。(164頁)

チナスキーは自分自身を冷静に見つめている。これもまた主人公の魅力だ。

実はチナスキーは小説をせっせと雑誌に書き送ったりしている。採用された小説のタイトルがこれまた良い。

『ビールで酔ったおれの心は世界中の枯れ果てたクリスマス・ツリーより哀しい』(77頁)

本当にあったら読んでみたいぐらいだ。

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