『真夜中の子供たち』下巻を読む(続々)
サルマン・ラシュディの『真夜中の子供たち(下) 』の「第3巻」を読んでいる。
「第2巻」の最終章で主人公サリーム・シナイは、インド空軍の爆撃によって両親や親族の多くを失い、そして自らも記憶を失った。最愛の妹、ジャミラは辛うじて死を免れた。
「第3巻」の初めの3章、「ブッダ」「スンダルバンにて」「サムとタイガー」では記憶を失ったままのサリームが、その優れた嗅覚を買われて、パキスタン軍の一員となり、バングラデシュ独立戦争に巻き込まれていく有様が描かれている。
当時のパキスタンは西翼すなわち現パキスタン領と東翼すなわち現バングラデシュ領とで構成されていた。人口では東翼のベンガル人の方が上回っていたにもかかわらず、西翼が東翼を支配し続ける状況が続いていた。これに不満を抱いた東翼のベンガル人たちは独立を勝ち取るべく戦いを始めた。
これを鎮圧すべく、西翼(現パキスタン)は軍を派遣。さらに東翼(現バングラデシュ)内の反独立派イスラム過激派によるベンガル人虐殺が始まり、1000万人ものベンガル難民がインド領に流れ込むこととなった。
この戦争の中、パキスタン軍にバングラデシュ独立派を処刑するための部隊CUTIAが編成される。記憶喪失のサリームはブッダという名前でこの部隊に配属され、3人の少年兵とともにバングラデシュ独立派の殺害任務に従事することとなる。
ブッダ(サリーム)たちはいつしかマングローブの密林、スンダルバンに迷い込む。豪雨、ニッパヤシの実の爆撃、蛭の猛攻等など、スンダルバンの過酷な環境の中で、ブッダ以外の少年兵たちは精神を蝕まれていく…。なんか「地獄の黙示録」とか「ディア・ハンター」とかベトナム戦争の一場面を彷彿とさせる。
ブッダたちがスンダルバンで迷子になっている間に、戦況は一変していた。インドがバングラデシュ独立派側に立って参戦したのである。パキスタン軍の敗北は決定的になる。インド軍に包囲されたダッカ市内でパキスタン軍らによるベンガル人虐殺が起こるのだが、それをブッダたちは目撃する。
サリーム(というよりもラシュディ)は皮肉をこめてこう描写する:
「私たちは、卵形の頭に眼鏡をかけた男たちが横町で射殺されるのを見たし、この街の知識人たちが何百人も殺戮されるのを見た。だがこんなことは真実であるはずがなかったから、故に真実ではなかった。」(下巻317頁)
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