坂口謹一郎『世界の酒』を読む
昨日購入した古書,サカキンこと坂口謹一郎『世界の酒』(岩波新書,1957年)を読んでいる。半世紀以上前のヨーロッパ旅行記なので,隔世の感があって面白い。
例えば,これ,イタリアのレストランでのこと:
料理屋では,二合入りの底のすわったガラスの徳利に酒を入れて持ってきてくれるのが安上がりでよろしい。(3頁)
これはデカンタのことですね,先生。
同じくイタリアでの話:
ちょうど日本の箸くらいの大きさのパンがある。グリシニまたはグリシノといい,ポリポリかみしめると,香ばしくてちょっと風情がある。ドイツでも,このくらいの堅焼きのビスケットがあるが,ひどく塩からくて,ビールのさかなに妙である。(9頁)
グリッシーニ(複数形。単数形がグリッシーノ)についての記述だが,文の後半,ドイツの堅焼きビスケットとは(棒状の)プレッツェルのことですね。
まだ,日本にそういった文物が入ってきていない時代に形状とか風味とかを上手に伝えているので偉いと思う。
サカキン先生は名文家。次のような文章が随所に現れて楽しい:
ナポリ湾を一望におさめるリストランテに腰をおろして特徴のある傘松の木の間から紫濃いブーゲンビリヤの繁る岡や南欧の澄みとおった空に昇るヴェスヴィオの真白な噴煙を眺めながら酌むヴィノ・ヴェスヴィオやカプリのラクリマ・クリスチの味は,ほかではとても味わえない。(6~7頁)
暗い長い穴ぐらの巡礼を終えてランス名物しゃこ料理を御馳走になり,大寺の「笑う天使」を拝して美術館を見物,汽車でパリに着いたのは,街の灯が美しく夜霧にけむる灯ともし頃であった。(47頁)
そういえば,"La'cryma Christi"というヴィジュアル系ロックバンドがありました。彼らはワインの存在を後から知ったということですが。
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