『”ひとり出版社”という働き方』を読む
だいぶ前に買っておきながら積んでおいた本を読んでいるところである。
その本の一つが『“ひとり出版社"という働きかた』である。
出版の世界に生まれつつある「小商い」の好例を紹介している。
小商いと対照的なのが会社勤め。会社勤めの場合,近年の例では,会社に人生を吸い取られ,家は充電コーナーでしかなくなるという残念な事態が多すぎる。
これに対し,小商いの魅力は仕事と生活が分離しておらず,働くことがそのまま生きることになっているところにある。
出版の世界では長らく,印刷のプロセスや流通の仕組みなどの制約から大規模な組織でないと採算性のある本作りができなかった。
それが,テクノロジーの発達によって,出版の装置依存性が無くなり,”ひとり出版社”という小商いが可能になってきた。
出版=働き方=生き方。その魅力を伝える本である。もちろん苦労も多いが充実感も大きい。
本書では真の”ひとり出版社”である「小さい書房」,「土曜社」,「里山社」,「港の人」,「タバブックス」などのほか,それらよりはやや大きい「ミシマ社」や「サウダージ・ブックス」なども紹介されている。
じつはこの本を買うことにしたきっかけは「ミシマ社」のことが載っていたからだ。同社は先日紹介した松樟太郎『究極の文字を求めて』(参照)や6年ほど前に紹介した松本健一『海岸線は語る 東日本大震災のあとで』(参照)などの魅力的な本を出版してきた。
「本は出版社や編集者だけのものじゃなく,著者がいて,編集者がいて,売る人がいて,読者がいる。その循環を豊かにしていきたい。」(三島邦弘社長談,111頁)
という静かな熱い理想を持った言葉が印象的。あと,
「短期的な成果や即戦力を求めるなんて,この仕事がその程度だと自分で言うようなものです。」(三島邦弘社長談,98頁)
という言葉も小気味良い。
「サウダージ・ブックス」立ち上げの経緯も面白かった。
立ち上げたのはブラジルの日系移民一世を対象としたフィールドワークをしていた文化人類学の学徒だった浅野卓夫氏。
彼がなぜ「サウダージ・ブックス」を始めたのか,というのもまた魅力的な話なのだが,要約するのが惜しいのでぜひ読んでほしい。
取材当時は豊島で営業していたが,その後いったん活動休止。いまは鎌倉で活動を再開している。
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