コレラ,結核,COVID-19
「この物語(『ヴェニスに死す』)の結末では,アッシェンバッハもコレラの犠牲者の一人に過ぎなくなり,その時ヴェニスの多くの人々を苦しめているこの病気に屈することで,とどめの堕落が来る。」
「『魔の山』において,ハンス・カストロプが結核だと判ったときには,一種の昇格があった。結核はハンスの独自性を強化し,彼をそれ以前より確かにひと回り知的な存在とせずにはおかない。」
「コレラとは複雑な自我を単純化して,病める環境に還元してしまう質の災禍であって,人間を個性化し,背景の環境から浮かびあがらせる病気とは結核の方なのである。」(スーザン・ソンタグ著,富山太佳夫訳『隠喩としての病』)
ということで,病は真の病状のほかに,イメージと言うか神話をまとっているということをスーザン・ソンタグは明らかにする。
かつて結核は,線が細く,青白く,美しく,若く,知的な男女をイメージさせるロマンチックな印象を与えていた。そして,罹患者の生は深化されたり聖化されたりする。もちろん,これは実態とは全くかけ離れている。
これに対して,コレラはじめとする伝染病は,人間の尊厳を蹂躙し,患者を一生物あるいは物質へと引き下げる役割を果たした。
では,今,猛威を振るっているCOVID-19はどうかと言うと,多分,後者だろうと思う。罹患したとたんに統計データへと還元されてしまうのである。
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