佐藤進一『日本の中世国家』を読む
先月刊行された,佐藤進一『日本の中世国家』(岩波文庫)を読んでいるところである。
「律令国家解体後に生まれた王朝国家と、東国に生まれた武家政権。中世国家の『二つの型』の相剋を読み解く」
という内容である。
であるから,王朝国家と武家政権の対立が本書の核心部分であるが,老生にとっては,律令体制が骨抜きにされて王朝国家が成立していく過程が読んでいて面白い。
唐に学んで構築した政治機構が,社会経済の変化に合わなくなってきたときどうなるのか,あるいはどうするのか?
律令体制下の正式な国家機関としては,太政官がある。
- 左右大臣・大納言からなる議政局
- 少納言・大小外記からなり,人事・総務・秘書を司る外記局
- 左右の弁官で構成され行政を司る弁官局
この3つで太政官は構成される。この政治システム下では,手続きが煩雑であることと,天皇と公卿たちとが拮抗しあっていることから,誰かが暴走して独裁に走るのを抑制できるようになっている。
これが変化するのが10世紀ごろ。
荘園の拡大により,地方支配の枠組みが,中央政府=太政官の直接掌握 → 国司への権限移譲 → 郡司・郷司の請負方式へと変化する。民営化ですね。
続いて蔵人所や検非違使といった令外官の設置・拡大が太政官の権限を弱めていく。
蔵人所は天皇直轄の機関だが,太政官からの出向者(太政官との兼任だが)を集めることにより,機動力のあるミニ政府を実現。いまの内閣府みたいなもんか。
検非違使庁は,弾正台(監察・警察),左右衛府(警察),刑部省(裁判,行刑)の権限を吸収し,太政官の司法・警察の権限を有名無実化。
また,各省庁の専門業務(文書処理,法律解釈,断罪など)は特定の氏族の家業となっていく。
法律体系たる律令については,廃棄はされず,明法家の新解釈によって運用が変更される。その法の新解釈の仕方(准用と折中と言う)はアクロバティックで素晴らしいのだが,詳しくは本書の66~74頁を見ていただきたい。法を変えずに解釈を自由に変えるというテクニックは現代でも使われている。
その准用と折中とが最も効果を表したのが,家業の肯定である。国の論理よりも家の論理を優先するために,養子制度や私財管理に関する法律に対して准用と折中が適用され,違法に見えるが合法みたいな法解釈になり,結果として家業を国家から守ることに成功した。
こうした様々な動きによって,律令体制は名目だけのものとなり,12世紀初中期には「王朝国家」と呼ばれる新体制へと移行するわけである。
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