山頭火と猫(2)
種田山頭火の「行乞記(一)」を読みながら猫に関する記述を追っている。
昭和5年10月29日,宮崎県門川の宿・坂本屋に泊まった山頭火は宿の忙しい雰囲気を次のように記している:
なかなか忙しい宿だ、稲扱も忙しいし、客賄も忙しい、牛がなく猫がなく子供がなく鶏がなく、いやはや賑やかなことだ(行乞記(一),昭和5年10月29日)
門川に隣接する延岡に早く行きたいと思いつつも,雨のせいで山頭火は翌30日も宿に滞在し続けている。
この宿には3匹の猫たちがいる。山頭火はこのように記している:
此宿には猫が三匹ゐる、どれも醜い猫だが、そのうちの一匹はほんたうによく鳴く、いつもミヤアミヤア鳴いてゐる、牝猫ださうなが、まさか、夫を慕ひ子を慕うて鳴くのでもなからう。(行乞記(一),昭和5年10月30日)
そしてこの日,猫を題材に自由律の俳句を吟じている:
夕闇の猫がからだをすりよせる
牛がなけば猫もなく遍路宿で
餓えて鳴きよる猫に与へるものがない
おそらく,三匹の猫のうちのよく鳴く猫が山頭火の足にまとわりついてきたり,牛が鳴いているのに合わせるかのようにミャーミャーと鳴いていたりするのだろう。この猫は山頭火に餌をねだっているのかもしれない。
しかし,山頭火の手元には猫に与えるものが何もない。急にわびしい気持ちになる。
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