« 山頭火と猫(2) | トップページ | 山頭火と猫(4) »

2020.03.05

山頭火と猫(3)

種田山頭火『行乞記(一)』の中の猫に関する記述を追っている。

山頭火は,昭和5年11月30日から12月4日まで(4泊),(福岡県田川郡)後藤寺町の次郎氏宅に滞在している。ここでは次郎氏と歓談したり句作に励んだり,楽しく過ごしていたようである。

次郎氏宅には猫がいた:

猫が一匹飼うてある、きいといふ、駆け込み猫で、おとなしい猫だ、あまりおとなしいので低脳かと思つたら、鼠を捕ることはなかなかうまいさうな、能ある猫は爪をかくす、なるほどさうかも知れない。(行乞記(一),昭和5年12月1日)

低脳とはあまりの言いようだが,山頭火には悪気は無いのだろう。山頭火はこのきいという猫をかわいがっている。この日作った句のうち,2つはきいを題材としている:

撫でゝやれば鳴いてくれる猫(次郎居)
猫はいつもの坐布団の上で

翌12月2日の日中は次郎氏宅で,山頭火一人,きいと共に過ごしている:

毎朝、朝酒だ、次郎さんの厚意をありがたく受けてゐる、次郎さんを無理に行商へ出す、私一人猫一匹、しづかなことである(行乞記(一),昭和5年12月2日)

この日作った20句のうち,7つは猫(きい)を題材としている:

物思ふ膝の上で寝る猫
寝てゐる猫の年とつてゐるかな
猫も鳴いて主人の帰りを待つてゐる
人声なつかしがる猫とをり
猫もいつしよに欠伸するのか
猫もさみしうて鳴いてからだすりよせる
いつ戻つて来たか寝てゐる猫よ

翌3日。山頭火は次郎氏宅で48歳の誕生日を迎える。そして次郎氏と酒を酌み交わしながら一日中歓談している。この日の句の一つに,猫の句がある:

話してる間へきて猫がうづくまる (行乞記(一),昭和5年12月3日)

「猫あるある」の一つである。

翌4日。ようやく山頭火は次郎氏宅を辞去する(少し反省して):

冷たいと思つたら、霜が真白だ、霜消し酒をひつかけて別れる、引き留められるまゝに次郎居四泊はなんぼなんでも長すぎた。
十一時の汽車に乗る、乗車券まで買つて貰つてほんたうにすまないと思ふ、そればかりぢやない、今日は行乞なんかしないで、のんきに歩いて泊りなさいといつて、ドヤ銭とキス代まで頂戴した、――かういふ場合、私は私自身の矛盾を考へずにはゐられない、次郎さんよ、幸福であつて下さい、あんたはどんなに幸福であつても幸福すぎることはない、それだのに実際はどうだ、次郎さんは商売の調子がよくないのである、日々の生活も豊かでないのである。(行乞記(一),昭和5年12月4日)

別れを読んだ句:

別れともない猫がもつれる (行乞記(一),昭和5年12月4日)

山頭火はこのあと,飯塚,笹栗を経て博多に向かう。

|

« 山頭火と猫(2) | トップページ | 山頭火と猫(4) »

山頭火と猫」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 山頭火と猫(2) | トップページ | 山頭火と猫(4) »