「ラ」か「サ」か
「美少女サムソーとわたしとの『恋愛』はボンボレ節だけでおわったが、わたしがこの少女のことをおぼえているのは、その美貌のせいだけではない。じつはそのサムソーという名まえが、問題なのである。わたしは彼女の口からこの名まえの発音をきいて、すぐわかった。この名の語頭音、ここでカタカナのサであらわした音はlの無声音なのである。」(梅棹忠夫『実戦・世界言語紀行』(岩波新書 1992年))
この文章を読んだ時、lの無声音がサに聞こえるとはどういうことかと思った。無声音であってもlはラではないのかと。
それから幾星霜。たまたまチベット語アムド方言のテキストを読んでいたところ、その音に出会った。
ローマ字表記で/lha/と表記されたその音は、舌先を上歯茎にあて、lを発音するかのような状態で両頬の内側に息を当てるようにして発音する。試しに発音してみると確かに(日本人には)サに近い音に聞こえる。正式にはvoiceless alveolar lateral approximantというのだそうだ。
小生にとっては驚きの子音だが、シナ・チベット語族では普通の音らしい。世界は驚きに満ちている。
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