« 【三多摩大学山岳部の本棚】『K2 非情の頂』と『垂直の記憶』 | トップページ | 「ラ」か「サ」か »

2020.02.07

ヒマラヤイエティ考(四) イエティに対する学術的態度

1978年夏,GreenwellとKingは,形質人類学者たち (physical anthropologists) に対して「ビッグフット (Bigfoot) 」や「ネッシー (Nessie) 」に関する意識調査を行った[1]。

ビッグフットというのは北米に住むという謎の二足歩行動物であり,サスカッチ (sasquatch) の名でも知られる。イエティと同様の生物であるため,ビッグフットに対する形質人類学者たちの意識を,イエティに対する意識として読み替えても問題はなかろう。

GreenwellとKingによる調査では,調査票を送った100名の形質人類学者たちのうち,69名が有効な回答を寄せた。そのうち39はビッグフットに関する回答,30はネッシーに関する回答だった。

その結果の一つが次の表に示されている。

 

表1 ビッグフットやネッシーに関する報告は何に由来するのか?

  ビッグフット ネッシー
未知の動物の存在 12.8% 23.3%
他の動物の見間違い 35.9% 36.7%
想像,作り話,伝説 74.4% 56.7%

 

12.8%というのは39人中5人のことだが,一部の形質人類学者たちはビッグフットが未知の動物である可能性を受け入れている。

ビッグフットもしくはネッシーの存在を否定する形質人類学者たちが,否定の理由として挙げたのが次の表に示されている:

 

表2 否定の理由

  ビッグフット ネッシー
化石が無い 46.2% 16.7%
標本が無い 74.4% 56.7%
骨が見つからない 61.5% 46.7%
大きすぎる 2.6% -
生息域に栄養源が無い 12.8% 23.3%
あまりにも長い間,未確認のままである 35.9% 40.0%
あまりにも奇妙で検討に値しない 2.6% 3.3%

 

視点を変えて,「もしビッグフットなりネッシーなりが見つかったら科学にどんなインパクトがあるのか?」という問いに対しての回答が次の表にまとめられている:

 

表3 発見が科学に与えるインパクト

  ビッグフット ネッシー
極めて大きい 57.1% 3.3%
ほどほど 34.3% 36.7%
わずか 8.6% 60.0%

 

これらの表をもとにまとめると,

「物的証拠が見つからないことから,ビッグフットの存在を受け入れる専門家はそれほど多くない」
「しかし,もしビッグフットが見つかったら科学に極めて大きなインパクトがあると考える専門家は多い」

ということになるだろう。

[1] J. Richard Greenwell and James E. King: Attitudes of Physical Anthropologists Toward Reports of Bigfoot and Nessie, Current Anthropology, Vol. 22, No. 1 (Feb., 1981), pp. 79-80

|

« 【三多摩大学山岳部の本棚】『K2 非情の頂』と『垂直の記憶』 | トップページ | 「ラ」か「サ」か »

ネパール」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 【三多摩大学山岳部の本棚】『K2 非情の頂』と『垂直の記憶』 | トップページ | 「ラ」か「サ」か »