【大学改革失政】佐藤郁哉『大学改革の迷走』を読む(中)
佐藤郁哉『大学改革の迷走』(ちくま新書)を読んでいると,文科省(および中教審)と大学関係者の間の相互不信の深刻さを窺い知ることができる。
文科省(および中教審)から見れば,日本の大学関係者はグータラ野郎ども。なぜなら,この30年間,大学の改革を唱えながら遅々としてその結果を示してこなかったからである。アメリカの大学のように立派な大学になれ!と言っているのに,まったくその気配すら見えない,というわけである。
これに対し,日本の大学関係者から見れば,文科省(および中教審)は空手形を切ってきただけの存在。なぜなら,この30年間,「高等教育財政の充実」や「公的支出を欧米並みに近づけていく」ことを唱えながら,そういった大学教育への予算措置を実現しなかったからである。「砲弾の不足や装甲の薄さは大和魂で補え」と掛け声をかけていただけの旧日本軍と同じ。
こういった相互不信の上で「改革ごっこ」(原義も適用範囲もわからないままシラバス,PDCA,KPIという言葉を振り回して教育改革や大学経営のまねごとに励むこと)が展開されるのだからほとんど絶望的な状況である。
この状況を乗り越えるためにはどうすればよいのか。そのためには相互不信が生じる原因あるいは背景を探る必要がある。
著者は次の3つの点を指摘する:
- そもそもPDCAサイクルが機能しておらず,責任者もいない,政策立案・評価・改善プロセス
- 勧善懲悪劇への傾倒
- ちゃんとしたデータに基づかない政策立案
とくに,「勧善懲悪劇」からの脱却と「データに基」づく政策立案,つまりリアリズムに立脚することこそが,この30年間続いてきた大学改革の迷走を終わらせることができる策だと著者は主張するのだが,その話はまた別記事で。
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