「質vs量の戦い」という神話
独ソ戦のイメージは「質のドイツと量のソ連の戦い」というものだった。ヒトラーの干渉がなければ、ドイツ軍は巧みな作戦によって物量に勝るソ連軍を翻弄し、場合によっては勝っていたかもしれない、というわけだ。
しかし、大木毅『独ソ戦』を読んだところ、イメージがガラッと変わった。
独ソ戦初期においてもドイツ軍指導者層のソ連に対する見通しはずさんなものだったし、後期に至ってはドイツ軍の「巧妙な作戦」はソ連軍の「作戦術」に打ち砕かれ続けた。
しかし、冷戦体制の中で、量に勝るソ連と対決する西側諸国にとっては「質のドイツと量のソ連の戦い」という神話は受け入れやすく、都合の良いものだったわけで、それ故にこの神話は長らく生き残った。
ここで思うのが、違う分野でも「質vs量の戦い」みたいな神話というか比喩をよく聞くということである。例えば、「質の日本製品と量の中国製品」とか。しかし実態をよくよく調べてみると、そんな比喩は押されている側の気休めや言い訳でしかないことが多々ある。
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