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2019.10.21

世界最大級の難民キャンプでの生活|『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』

バングラデシュ・コックスバザール県には90万人を超えるロヒンギャ難民が暮らしている。クトゥパロン・バルカリ拡張キャンプは世界最大級の難民キャンプであり,62万人強が暮らしている。

中坪央暁(なかつぼ・ひろあき)『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』の第5章「難民キャンプの日々」は同書の中で最もページ数の多い(百ページ近い)章であり,クトゥパロン・バルカリ拡張キャンプを筆頭に,ハキンパラ,ジャムトリ等複数のキャンプにおける,難民たちの生活の実態を詳しく紹介している。

難民の生活というと凄まじく悲惨な状況を思い浮かべるが,その予想は少し裏切られる。

この章の副題は「過酷な楽園」であり,難民キャンプの中でロヒンギャたちがそれなりに平穏で充実した生活を送っている様子が描かれている。

水道やトイレも整備されつつあり,竹とビニール製とは言え世帯ごとに住居を構えており,雑貨屋や茶屋もある。

「ロヒンギャの人々にとって,難民キャンプは生まれて初めて自分たちの存在が認められ,安心して暮らすことができる『楽園』あるいは『別天地』なのではないか」(278~279頁)

と著者は感じている。

もっとも,莫大な数の難民を抱えることはバングラデシュにとって大変な負担であるし,ロヒンギャにとってもミャンマー・ラカインの地に帰り,安心して暮らせることが最大の願いであるわけで,難民問題が解決されることがベストであることに違いはない。

ミャンマー政府・国民がこの問題の解決のために,ロヒンギャたちやバングラデシュ政府に歩み寄る可能性があるか,というと,今のところ全くない。

「私たちが陰鬱な気分になるのは,軍事政権の弾圧に抗して民主化を勝ち取ったミャンマーの人々,アウンサンスーチーを信じて闘った人々,私たちも共感し応援した人々が,ロヒンギャに対しては人権意識も法秩序もかなぐり捨て,自分たちを圧迫していた国軍による少数民族弾圧に賛同ないし加担しているという甚だ救いのない現実への幻滅と失望なのだと思う」(468~469頁)

と著者は吐露するが,本書を読む人々もまた同じことを感じるだろう。

だが,今解決できないと言って絶望してはいけないわけで,この問題の存在を忘れないことが国際社会,というかその一員である我々の責務であると思う。

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