疾走する車いす|ガス・ヴァン・サント監督作品"DON'T WORRY"観てきた
YCAMに出かけて,ガス・ヴァン・サント監督,ホアキン・フェニックス主演『ドント・ウォーリー』を観てきた。
障がい者を描くとなると,主人公が真正面から苦難に立ち向かい乗り越えていくパターン(いわゆる感動ポルノ)になるか,障がいにもめげず楽しくやっていますよ~というパターンになるか,どちらかに陥りやすいと思う。
しかし,この映画はどちらにも陥らない。さすがガス・ヴァン・サント。
主人公ジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は自己中心的で皮肉屋で飲んだくれ。ある夜,仕事仲間のデクスター(ジョン・ブラック)と意識不明になるまで飲みまくる。そして,デクスターが運転する車に乗って事故に遭う。一命をとりとめるものの,胸から下が麻痺。車いす生活を強いられようになる。
そうなっても享楽的な態度は変わらず,むしろ加速する。病院で看護婦と一戦交えるわ,酒をガンガンあおるわ。こうした態度も体の自由がきかないことに対する苛立ちが原因(ジョンなりの自己弁護によれば,ジョンには母に捨てられた過去がある。それがアルコール依存の原因である。そしてアルコール依存が交通事故,そして身体麻痺に至ったという)。
ジョンは自暴自棄に陥り,思い通りにならないことがあれば周囲に当たり散らす。その結果,介護人やソーシャルワーカーとも対立するようになっていく。
そんな荒廃した精神状態も,ガールフレンド(スカンジナビア航空CA)や禁酒活動仲間の支え,また突如起こった奇跡的体験によって,改善の方向に向かう。不自由な手を使って始めた過激な風刺漫画も(賛否両論巻き起こるが)次第に認められるようになる…。
◆ ◆ ◆
全体としては絶望から希望へと向かうストーリーが展開されるわけだが,何となく全体的に死の気配を感じた。
それは,ジョン・キャラハンの態度が,否認や怒りから受容へと変化していくことが,エリザベス・キューブラー=ロスの描く死の受容プロセスに似ているからではなかろうか?
本作はロビン・ウィリアムズが映画化を熱望していたという。そういえばホアキン・フェニックスがだんだんとロビン・ウィリアムズに見えてきた。ジョン・キャラハンを不幸に陥れたデクスターを演じるジョン・ブラックもいい。大口をたたくが小心者,という感じが。そしてスカンジナビア航空CA役のルーニー・マーラを見て,なんでこんな美人がジョンのガールフレンドなのか,と思ったが,ルーニーはホアキン・フェニックスの奥さんなのだった。
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