バリントン・ムーア『独裁と民主政治の社会的起源』を読む
バリントン・ムーア『独裁と民主政治の社会的起源(上): 近代世界形成過程における領主と農民』(岩波文庫)を読んでいる。
民主主義の一つの究極の形としてカエサル主義つまり独裁制がある,という考え方が存在するのはとりえあず脇に置いておく。
ここで,ムーアが考えているのは議会制民主主義であり,おそらくはダールの言うポリアーキーであろう。
そういう意味での民主主義が,なぜある国では成立し,別の国では成立しなかったのか。その理由を各国の社会経済構造の違いから説明しようとしたのが本書である。
歴史社会学の比較近代化研究という学問分野における名著として知られている。
原著は1966年に出た。半世紀以上経った今になって読む必要があるのか,という人もいるだろう。実際,ソ連が崩壊し冷戦が終わったころには,本書の役割が終わったとする意見もあったようである。
ところが,ゼロ年代後半から世界的に民主主義のリセッションが始まったという説がある。もし,今,民主主義が危機に瀕しているのであれば,本書を読み直すことには極めて強い意義がある。
(同じ意味で,カール・シュミット『現代議会主義の精神史的状況』を読むこと(参照)にも,また全く異なる価値観・生き方を指し示すイスラームを学ぶことにも意義がある。)
教科書的世界史観では,資本主義と民主主義の担い手をブルジョアジーとする。
しかし,本書では地主上層諸階級と農村とが近代化プロセスの主人公である。かれら農村集団の行動が,議会制民主主義ルートもしくは左右独裁政治(共産主義とファシズム)ルートの選択に影響を及ぼしたとしている。
つまり民主化の成否を決めたのは農村集団の動向だったということを,イギリス・フランス・アメリカ・中国・日本・インドの比較によって示しているのが本書の特徴である。
だから本書の副題は「近代世界形成過程における領主と農民」なのである。
まず,イギリスの近代化プロセスについて要約を書きたいと思ったのだが,長くなるので次回に。
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