野呂邦暢による夏の描写
野呂邦暢の小説をあれこれと読んでいるところだが,夏の描写がうまいと思う。光の描写もいいが,空気の感じ,温度のみならず湿度を感じさせる描写が良い。
汗で体にへばり付いた服を剥がす動作がよく出てくることに気が付いた。
「今年の夏は日照り続きでしょう。雨が降らなくなってから何日になるかしら」浩一はそれに答えず,シャツの胸をつまんではがす。汗ばんだ肌に布地が気味わるくはりついている。(『棕櫚の葉を風にそよがせよ』)
げんにこうして西日と向かいあっているわたしの皮膚は,シャワーを浴びたほどの濡れようだ。ときどき肌着をつまんではがしている。けれど躰の奥深いところが,夏の光につらぬかれ,全身をめぐる血液もあたたかくざわめく感じ。心臓の快い鼓動,躰の芯まで八月の夕べの光に浸って,けだるく物憂い。(『日が沈むのを』)
暑い。わきの下に汗が滲んで黒く濡れている。まつわりつくシャツをときどき指で引き剥がした。ようやく八百屋を見つけた。(『草のつるぎ』)
今は八月。夏の真っ盛りである。つまんで剥がすという描写に,リアリティーというかシンパシーを感じる。
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