イギリスの資本主義とデモクラシー
バリントン・ムーアは『独裁と民主政治の社会的起源』3つの近代化ルートを示している。
- (A) 資本主義とデモクラシーに向かうルート
- (B) 上からの保守的革命によりファシズムに向かうルート
- (C) 農民革命を経て共産主義に向かうルート
このうち,(A)資本主義&デモクラシーに向かうための条件としてムーアは次の2つを示している:
- (A1) 権力の均衡(国王と地主の力の均衡)
- (A2) 農業の商業営利化による農民問題の消滅(農民層が変容)
(A1), (A2)が成立するためには「暴力」が重要な役割を果たしている。
イギリスの場合は清教徒革命が(A1)に,囲い込み運動が(A2)に作用している。
イギリスでは,地主上層階級(ジェントリ)と都市ブルジョワジーとの利害が一致(16世紀から17世紀にかけてジェントリが企業家になり,都市の商工業者と結びついた)。議会を拠点として国王の官僚制度に対抗し,清教徒革命を経て議会を強化し王権を制限することに成功した。
また,商業的農産物(例えば羊毛)の生産性向上のため,地主上層階級による囲い込み運動が行われ,小規模な農民は没落した。
これらの「暴力」の原因は商工業の発達である。商工業の波,つまり資本主義の波に乗った者たちが議会を通じて政治の主導権を握り,波に乗れなかった者たちが旧体制の破壊に貢献した。
ムーアはこう記す:
「イングランド社会はこのように商業と一部の製造業から衝撃を受けて上から下へと解体していき,この解体は同じ衝撃の力が生み出した急進的な不満分子が時折華々しく爆発するのを許すような形をとった。」(『独裁と民主政治の社会的起源』41頁)
「この過程においては,旧秩序が崩壊するにつれて,長期的な経済傾向ゆえに敗北していった部分が登場し,旧体制(アンシャン・レジーム)を打ち壊す暴力的な「汚れた仕事(ダーティ・ワーク)」のほとんどを行って,一連の新しい制度のために途を切り開く。」(同)
では,フランスはどうなのかと言うと,少しややこしい。その話はまた次回。
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