グスタフ・モーラー監督『ギルティ』を観てきた
久々にYCAMで映画を観てきた。
今回はグスタフ・モーラー監督『ギルティ』(英題 "The Guilty")である。
「電話の声だけを頼りに誘拐事件を解決する」という設定の映画。
緊急通報指令室のオペレーター,アスガー・ホルムが主人公。彼のところに,誘拐された女性からの通報が入ってきた。アスガーは彼女を救うべく,行動を起こす。
ただし,彼はオペレーターなので指令室を離れることはできない。被害者,その家族,容疑者,そして警察関係者への連絡や指示はすべて電話を介して行われる。画面に映し出されるのはアスガーの表情がほとんどで,あとは指令室内の情景だけ。
アスガーにも,この映画の観衆にも,会話を聞き漏らさぬようにする集中力と,電話の向こう側で起こっていることに対する想像力とが要求される。そういう意味では少し労力を要求するが,非常に面白い作品だ。
いまちょうど柴田忠夫著『ラジオドラマ入門』(教育史料出版会,1981年)という古書店で買ってきた本を読んでいるのだが,そこに書かれているラジオドラマの特徴と共通する部分がある。
ラジオドラマの特徴を柴田はこのように言っている:
「聴覚だけに訴えるラジオドラマの場合,過去の境遇をひきずって登場する人物の,過去から現在への移り変わりや,相手の境遇との関わりかたといった複雑な設定を,現在進行しているドラマの流れと同時に,聴取者に理解させるのは難しい」(22ページ)
「聴く方は,現在進行しているドラマの情感には浸っていられるが,それ以外の記憶力を動員しなければわからないような,説明的なものを押しつけられると,煩わしくなって拒絶反応を示すのである」(同ページ)
この特徴のゆえに,ラジオドラマはシンプルでなくてはならない。その代わりに声のトーンや背景音など,音の効果的な使い方には気を配る必要がある。
この映画,「ギルティ」における電話での会話はまさにラジオドラマの特徴を踏まえている。伝達内容は非常にシンプルだが,徐々に事件の全貌が浮かび上がるように構成されているし,電話の向こうから聞こえてくる自動車やサイレンの音,震える声,息遣いといったものは事態の緊迫感を高めている。
完全なラジオドラマとは異なるのは,これは映画であり,主人公アスガーの表情と行動とが途切れることなく映し出されているということ。担当している事件に関する視覚情報がゼロの状態で,音声だけを頼りに事件解決を図る主人公の苦悩を演じきった俳優ヤコブ・セーダーグレンはすごい。
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