東南アジアとはどこのことか?
東南アジアとはどこのことか?
自明なことのように思えるが実はイメージに揺らぎがある。
ASEAN10カ国ないし11カ国といえば領域ははっきりするが、それは行政上の境界であって、学問的な領域設定とは違う。
地理学的には東南アジアとそのほかの地域を明確に分けるのは難しい。ミャンマーからインド、バングラデシュを隔てるものは特になく、中国南部からベトナム北部まで、山や河川はあれど、やはり境ははっきりしない。
生物地理区では、インド亜大陸からインドシナ半島を経て中国南部およびフィリピン、インドネシアの島嶼に至る地域は東洋区(Indomalaya ecozone)というまとまりをなしており、ここから東南アジアだけを取り出すのは簡単ではない。
山本信人監修・編著『東南アジア地域研究入門 3 政治』の序章では、東南アジアという地理概念の変遷が語られている。この地理的概念は国際政治的な理由によって拡大収縮を繰り返している。
かつての大英帝国にとってはインド、スリランカからイギリス領ビルマ、フランス領インドシナ、イギリス領マラヤ、オランダ領東インド、そしてイギリス領香港までを含んだ広大な領域が東南アジアだった。
英国没落後、世界の覇権を握ったアメリカにとってはフィリピンとタイを2つの中心として、その周りに広がる領域が東南アジアだった。
「東南アジア研究が成立するためには、東南アジアなる地域が存在する必要がある。」(6ページ)
その通りであるが、実際には東南アジア地域研究を通して東南アジアが定義されるというトートロジカルな学問の枠組みとなっており、それがかえって東南アジア地域研究をおもしろいものとしている。
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