ヴェデキント『春のめざめ』を読む
平成から令和へと代替わりする大型連休に突入したわけである。時間ができたので,本棚の滞貨一掃。2年間放置してきたヴェデキント作・酒寄進一訳『春のめざめ』(岩波文庫)を読んだ。
フランク・ヴェデキント(1864~1918),本名ベンジャミン・フランクリン・ヴェデキントの戯曲である。
ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』(光文社典新訳文庫・松永美穂訳では『車輪の下で』。参照)と同じく画一的な教育と大人たちの無理解によって押し潰されていく10代の少年少女の悲劇を描いている。
メルヒオール,モーリッツ,ヴェントラの3人を中心に劇が進行していくが,この3人を含め,同じ年代の少年少女たちは性に対して興味津々。だが,大人たちはその大事なことについて何も教えてくれない。それが,悲劇を生む原因となっている。1時間半から2時間の範囲で演じられるだろう戯曲の中に男女の性への興味のみならず,同性愛や自殺や妊娠中絶など盛りだくさんの話題が盛り込まれている。
この戯曲が書かれたのは1891年。参考までに記しておくと,ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』の発表は1885年,ヘッセ『車輪の下』の発表は1905年。
こういう社会派というかセンセーショナルな戯曲を書くことになった背景には,ヴェデキント自身の出自が影響している。訳者の解説によれば,ヴェデキントの父も母方の祖父もリベラリストである。ヴェデキントの父は三月革命の失敗後,渡米し,そこでヴェデキントの母となる女性と出会った。父母がドイツに戻ってからヴェデキントが生まれているので,ヴェデキントはいちおうドイツ出身ということになるが,実は国籍はアメリカ。本名ベンジャミン・フランクリンが示すように,ヴェデキントにはリベラリズムの血が流れ,そして反骨精神が宿っているのである。
訳者の解説に書いてあるが,この戯曲はドイツはもちろんのこと,日本でも繰り返し上演されている。ちなみにドイツで1965年に上演されたとき,メルヒオールを演じたのは若き日のブルーノ・ガンツ(今年の2月に死去した)だったそうだ。
日本では劇団四季が演じたほか,現在(2019年4月13日~29日)もKAAT神奈川芸術劇場で上演されている(演出:白井晃)。ちなみに,メルヒオールは伊藤健太郎,モーリッツは栗原類,ヴェントラは岡本夏美が演じている。
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