名著『悪文』を読む
岩渕悦太郎編著『悪文』という素晴らしい文章読本がある。
様々な悪文を取り上げて、どこがいけないのかを検討し、日本語で文章を書くときの注意点を明らかにするという本である。
1960年に初版が出て、未だに版を重ねているのだからすごいものである。
なぜ今、この本を本棚から引っ張り出してきたかというと、実際に悪文に悩まされているからである。そのものをここに掲載するわけにはいかないが、こんな感じの文章である。
20世紀も後半になると顧客の要望を重視した商品開発が重要になる。つまり、不確実性の時代における共創型のものづくりの重要性である。
重視、重要、重要性と似た言葉の羅列も気になるが、「つまり」の前後の文が対応していないのがより大きな問題である。「顧客の要望を重視した」という語句と「不確実性の時代における共創型の」という語句は同じ意味でもないし、包含関係があるわけでもない。「商品開発」と「ものづくり」との関係もまた同様。
「つまり」という言葉によって2つの文章が形式的には接続されているものの、実は両者の間には大きな論理の飛躍があるわけである。両者のギャップを埋めるのは容易い仕事ではない。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 紀蔚然『台北プライベートアイ』を読む(2024.09.20)
- 『ワープする宇宙』|松岡正剛に導かれて読んだ本(2024.08.23)
- Azureの勉強をする本(2024.07.11)
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
- トマス・リード『人間の知的能力に関する試論』を読む(2024.05.22)
コメント