『海上花列伝』を読む
先日紹介した『傾城の恋/封鎖』の著者・張愛玲 (Eileen Chang)は米国に移り住んだ後,上海を舞台とした清朝末期の小説『海上花列伝』を英訳した。
その『海上花列伝』を先日から読み始めている。今のところ日本語訳としては唯一のもの,太田辰夫訳『海上花列伝』(平凡社 中国古典文学大系 49,1969年)である。
著者は江蘇省松江府,つまり現在の上海の小説家,韓邦慶 (Han2 Bang1 qing4)。その地域の日常語である呉語で書かれた。
舞台は清末,上海の花街。すでに欧米人も上海の租界に居住している時代。
いちおうの主人公は,田舎から上海に職探しに出てきた少年,趙樸斎(Zhao4 Pu3 zhai1)17歳である。世間知らずといった感じだったのだが,たちまち花街の魅力に取りつかれ,零落して車夫となったり,置屋の主人となったりする。
今,「いちおうの主人公」と書いたのは,この小説は群像劇だからである。特定の登場人物たちが何かを成し遂げたり,悲劇に向かったりするような小説ではない。始まりも終わりもない日常の中で,悲喜こもごものエピソードが重ね合わされ,複雑な交響楽となっているわけである。
張愛玲が好んだのもわかる気がする。
ちなみに,1998年にホウ・シャオシェン監督で映画化された。タイトルは『フラワーズ・オブ・シャンハイ』という。台湾・日本の合作で,トニー・レオンと羽田美智子が主演を務めた。映画は趙樸斎のエピソードではなく,王蓮生や沈小紅らのエピソードに基づいている。
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