そういえば,「やつめさす」
朝日新聞の文化・文芸欄に詩人・野村喜和夫による追悼文「入沢康夫さんを悼む」が出ていた。
そうそう。入沢康夫氏は10月15日に亡くなったのだった。
有名なのは長詩『わが出雲・わが鎮魂』。こういう出だしだ:
やつめさす
出雲
よせあつめ 縫い合わされた国
出雲
つくられた神がたり
出雲
借りものの まがいものの
出雲よ
さみしなにあわれ
この詩の「よせあつめ 縫い合わされた国」というくだり,松前健『日本の神々』の一節を思い出させる。今から7年余り前に「松前健『日本の神々』(中公新書)を読む」という記事で引用したが,もう一度引用しよう:
イザナギ・イザナミの国生み神話は,もともと淡路島付近の海人の風土的な創造神話,天の窟戸神話は,もと伊勢地方の海人らの太陽神話,スサノヲの八岐大蛇神話は,出雲の風土伝承,天孫降臨は宮廷の大嘗祭の縁起譚,というように,記紀の各説話はめいめい異なった出自・原素材を持っている。それらの原素材は,それだけで完結していて,互いに無関係であったに違いない。ところが,ある一時代にこれらの説話を操作し,これらを人為的に一定の構想をもって,結びつけ,大和朝廷の政治的権威の淵源・由来を語る国家神話の形とした少数の手が感じられるというのである。(松前健『日本の神々』189~190ページ)
古事記に記された数々の神話はもともと独立したものであったのが意図的に寄せ集め縫い合わされたものである――という説はもはや定説に近い。
朝日新聞の文化・文芸欄には入沢康夫氏の「未確認飛行物体」という詩が引用されているが,これがまた良い作品である。「薬缶だって/空を飛ばないとはかぎらない」。薬缶が夜毎に家を抜け出して町々の上を飛んでいくという光景は,シュールでユーモラスだが,同時にいろいろなことを想像させて面白い。詩の力。
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