関根光才『太陽の塔』を観てきた
YCAMで関根光才による映画『太陽の塔』を観てきた。
あの岡本太郎の作品にして,Expo'70:大阪万博の象徴とも言うべき太陽の塔について29名の識者が語るドキュメンタリー作品である。
そういえば,老生は太陽の塔と同い年であるし,母校のすぐ近所の万博公園に聳えていたので親近感が沸く。
とてもざっくりしたことを言うと,太陽の塔は現代に突き付けられたナイフである。
「何が『人類の進歩と調和 ("Progress and Harmony for Mankind")』 だ,コノヤロー」と。
70年当時よりも,半世紀を経た今頃になってようやくその意図・意義の一部が明らかになってきたといえる。
社会経済システムへの自発的隷従をやめ,内なる原始人を解き放て,というのが太陽の塔を通して岡本太郎が我々に送ってきたメッセージだ。
「曼荼羅としての太陽の塔」
識者たちの発言から浮かび上がってくるのが,太陽の塔は曼荼羅なのではないかという説。
確かに太陽の塔の内部の展示は,地下,地上,空中と分割され,全体で岡本太郎の宇宙観が表現されている。塔内には「生命の樹」が設置され,アメーバから人類に至る進化のプロセスが表現されているが,これを中心に置いて,全体で曼荼羅となっていると言える。
映画の中では,西洋で学び,帰国後は日本の土着のものに塗れて思索を深めたという南方熊楠と岡本太郎の類似点が指摘されている。熊楠には「南方マンダラ」と呼ばれる世界観があり,これに対応するものとして,太陽の塔を中心とする岡本太郎の曼荼羅があるというわけである。
「供物としての太陽の塔」
今,曼荼羅の話を書いたわけだが,曼荼羅と共に備えられるのが,トルマという供物である。ツァンパで作った尖った小さな塔のような供物だが,形が太陽の塔に似ている。
映画では,中沢新一やポン教・チベット仏教の僧たちが太陽の塔とトルマとの類似性を語っていた。
調べてみると,太陽の塔とトルマの類似性は前から言われていることで,例えば,村上大輔が風の旅行社のサイトに寄せた「「太陽の塔」誕生秘話[LHASA・TIBET]」という記事の中で,岡本太郎がチベット僧から写真を見せられて驚愕したというエピソードが紹介されている。
岡本太郎は知らず知らずのうちに,巨大な供物を作っていたのかもしれない。映画では太陽の塔は人類への供物だろうという説が語られていた。
本作は知的好奇心を掻き立てる刺激的な作品。だが,情報の濁流に飲まれそうで,Too much informationという気がしないでもない。
それにしても,今になっても人々の心を揺さぶり続ける岡本太郎は凄い。
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