梯久美子の『原民喜 死と愛と孤独の肖像』を読む
梯久美子の『原民喜 死と愛と孤独の肖像』(岩波新書)を読んでいる。
広島市出身の作家ということもあり,本書は広島の丸善ジュンク堂ではうず高く積み上げられ,他の新書を圧していた。売れ行き好調らしく,宇部の宮脇書店でも平積みが始まった。
1951(昭和26)年3月13日,原民喜は,轢死という彼が最も恐れ戦いた死に方で自ら命を絶った。46歳だった。
生前,二冊しか著書を刊行していなかったにもかかわらず,彼の存在は広く知れ渡っていたようである。重鎮・佐藤春夫を委員長とする葬儀が行われ,伊藤整,角川源義といった錚々たる人物たちが100人余りも会葬したという。柴田錬三郎と埴谷雄高とが弔辞を読みあげた。遠くフランス留学中であった遠藤周作にも連絡が届いた。
原民喜がいかに文学者たちに愛され,気に掛けられていたか,ということが,この本の比較的長い序章に描き出されている。
彼の死は驚きをもって迎えられたものの,予感されたものでもあった。埴谷雄高は弔辞の中で「あなたは死によつて生きていた作家でした」と述べた。
原民喜の鉄道自殺とその時の人々の反応とを描き出したのち,本書は「死と愛と孤独」を基調とした原の生涯をたどっていく。
表紙カバー(というか帯なのだが)と言い,各章の扉のレイアウトと言い,本書はこれまでの岩波新書には見られないぐらいの気合が感じられる。気合の入った本は好著という,小生の経験則を裏切らない内容だ。
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