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2018.09.21

板倉聖宣『白菜のなぞ』:高度な知識を楽しくわかりやすく

板倉・塚本・宮地による『たのしい知の技術』(仮説社,2001年)を読んでいたら,同社から出ている他の本も読みたくなったので,板倉聖宣『白菜のなぞ』(仮説社 やまねこ文庫,1994年)を取り寄せて読んでみた。

土橋とし子のイラストがいい味わいを出している。

さて,中身は……というと,凄くイイ!

身近な野菜である白菜にまつわるミステリーを,小学校高学年以上であれば理解できる,楽しくわかりやすい文章で解き明かしている。

まず驚くのが,白菜は清国の野菜であり,日本に伝来し,根付いたのは,明治維新以降だったということである。

そして,日本で栽培に成功するまでには大変な苦労があったということである。

なぜ,日本ではなかなか栽培に成功しなかったのか。それには,「種(しゅ)」と「品種」の概念が関係する。

「品種」もしくは「変種(亜種)」は,種が同じだが,形が性質が大きく異なるものを区別するための概念である。

ダイコンとカブは種が違う。だから交雑しない。

しかし,白菜とカブは品種が違うが,種は同じ。だから交雑する。

ついでに言うと,白菜とカブに加えて,アブラナはもまた同じ種で品種が違うだけ。いずれも「ブラッシカ・ラパ(Brassica rapa)」というアブラナ科アブラナ属の植物である。

日本では昔からカブやアブラナが栽培されてきた。そこへ新参者の白菜がやってくるとどうなるか?

もうだいたい結果の想像がついたと思う。

そういった環境で白菜が栽培できるようにするためにはどうしたらよいのか。農業関係者の悪戦苦闘ぶりが本書に記されている。


◆   ◆   ◆


本書は特徴ある書きぶりで,白菜の謎だけではなく,科学的思考とは何かということをも伝えている。

科学的思考の特色として「仮説検証」ということが挙げられる。まず,仮説を提示して,それを立証・反証していくということである。

本書の第1章では,白菜が明治維新以降に清国から伝来した野菜であることを資料によって示したうえで,なぜ,明治以前に白菜が栽培されていなかったのか,ということについて,

(1)昔の日本人は,中国や朝鮮(韓国)にハクサイがあることを知りもしなかったのでしょうか。

それとも,

(2)知ってはいても,昔の日本人はハクサイのようなものが好きではなかったので,取り入れようともしなかったのでしょうか。

それとも,

(3)ハクサイを取り入れたかったのに,いろいろな障害があって取り入れることができなかっただけなのでしょうか。

(本書19~20ページ)

とリサーチクエスチョン(仮説を疑問形で表したもの)を提示している。そして,このリサーチクエスチョンに答える形で話を進めていく。まさしく「仮説検証」プロセスそのもの。


◆   ◆   ◆


最後に。

やまねこ文庫の「やまねこ」とは,かつてガリレオ・ガリレイが活躍したイタリアの科学アカデミー「アッカデーミア・デイ・リンチェイ(Accademia dei Lincei)」,すなわち「山猫学会」に由来する。

本書の内容にふさわしいレーベルである。

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