アンコール遺跡群はなぜ大きいのか?
講談社学術文庫「興亡の世界史」第IV期第2弾として8月に刊行されたのが,カンボジア遺跡群の研究で名高い石澤良昭が書いた『東南アジア 多文明世界の発見』である。
本記事のタイトルに掲げた「アンコール遺跡群はなぜ大きいのか?」という質問に対する答えだが,この本で著者は逆説的な答えを示している。
すなわち,
「どの王も支配力が弱く神がかり的な見せ掛けの演出が必要であった」(p. 20)
からだという。
著者はアンコール王朝の碑文史料の読み解きからこのような答えを得た。
本書の別のところではもう少し詳しく述べている:
「王は登位するとその卓越した神秘性を増幅させるために,派手な祭儀を執り行っていた。それは王の権威が確立しておらず,支配者としての力量が未知数であったので,カリスマ性をもつ王者であることを誇示しようとして過剰な儀礼を行っていたといえる。」(p. 129)
こうした儀式や,それを執り行う大規模寺院などの舞台装置を演出していたのは,王師とかバラモンとか言われる宗教的権威だちであった。11~12世紀にいた王師ディヴァーカラパンディタという人物は,5代の王たちに仕え,黒幕としてこの王たちを操っていたという。
弱い王こそ巨大なモニュメントと過剰な儀式を必要とする―。
この対偶は,巨大なモニュメントと過剰な儀式を必要とせずとも,強い王はいる―ということである。
先日観た『バーフバリ 王の凱旋』のアマレンドラ・バーフバリ。この王者はマヒシュマティ王国の民衆から絶大な支持を集め,彼らの心に刻まれ,そして巨大なモニュメントなど必要としなかった。
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