緑閃光
野呂邦暢の随筆集の表題,『夕暮の緑の光』を見たとき,頭に浮かんだのは緑閃光(グリーンフラッシュ)のことだった。
グリーンフラッシュとは日没直前,あるいは日の出の直後,緑色の光が一瞬だけ輝いたようにまたたく現象である。非常に稀だという。
野呂邦暢は,グリーンフラッシュのことを夕暮の緑の光と呼んだのだろうか?
それとも夕日に照らされて輝く緑の葉のことを言ったのだろうか?
そこで,表題ともなった随筆「夕暮の緑の光」を読んでみた。
それは言わば小説家論ともいうべきものだった。なぜものを書くのか,という問いかけだった。
野呂自身は,切羽詰まった状況の中で何かに突き動かされてものを書く,ということだった。
「――他に言い難い何かがあり,それはごく些細な,例えば朝餉の席で陶器のかち合う響き,木漏れ陽の色,夕暮の緑の光,十一月の冷たさ,海の匂いと林檎の重さ,子供たちの鋭い叫び声などに,自分が全身的に動かされるのでなければ書きだしてはいなかったろう――」(『夕暮の緑の光』145ページ)
「木漏れ陽の色」と来て「夕暮の緑の光」と続く。樹木と太陽の組み合わせが繰り返されるとすれば,「夕暮の緑の光」とは,夕日に照らされて輝く緑の葉のことかとも思われる。
あるいは,夕日を見続けることで,周囲が補色の緑色に見えるようになったことを言っているのかもしれない。
だが,作家を突き動かすほどの何かだとすれば,グリーンフラッシュが最も相応しいように小生には思えるのだ。
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コメント
エリック・ロメールの映画「緑の光」がありましたね。いい映画でした。
投稿: 拾伍谷 | 2018.07.18 17:33
エリック・ロメールの映画もそうですが,緑閃光が幸運をもたらすという話は,結構世界的に知られているようですね。やはり,夕暮の緑の光は緑閃光なのかもしれません。
投稿: fukunan | 2018.07.20 00:13