高橋洋監督・脚本『霊的ボリシェビキ』を観てきた
霊的世界へのアクセスを試みる前衛党の皆さんが百物語を実施したら,こんなことが起きた――という話。
霊×ボリシェビキというネーミングですでにこの映画は成功している。
「霊的ボリシェビキ」概念は武田崇元氏が提唱したもので,この概念に憑依された高橋洋監督が映画として結実させたのが,これである。
分類としてはホラーに入るのだが,あまり怖くないというのがいい。
この映画の怖さを1ボリシェビキと定義すると,この間見たヨルゴス・ランティモス監督『聖なる鹿殺し: the KILLING of a SACRED DEER』(参考)の怖さは100ボリシェビキぐらい,トム・フォード監督『ノクターナル・アニマルズ』(参考)の怖さは30ボリシェビキぐらいある。
ホラーではないにもかかわらず,鈴木清純監督『ツィゴイネルワイゼン』(参考)や大林宣彦監督『花筐』(参考)ですら10ボリシェビキぐらいの怖さだ。
怖くないのに何がいいのか,というと,それはこの映画の持つカルト性である。
だいたい,降霊の場を清めるためにレーニン&スターリンの肖像画の前でボリシェビキ党歌を歌う冒頭のタイトルバックとか,参加者を杖で制裁する霊媒・宮路(長宗我部洋子)ややたら叫ぶ長尾(南谷朝子)といった過剰演技の女性陣とか,全員が銃で粛正されてしまうエンディングとか,どれをとってもカルト映画の香気が芬々。革命党の栄枯盛衰を短時間で見せられるような演出にはとても引き付けられる。
死刑囚の話をした三田を演じた伊藤洋三郎は,語り口がとても良い。怖い話が稲川淳二並みに上手い。聞き入ってしまった。
反逆的な安藤を演じた巴山祐樹は共感されない,みんなから嫌われる演技がとてもいい。生贄にされるのもむべなるかな。
それにしても主役ともいうべき橘由紀子を演じた韓英恵。顔の角度,表情を僅かに変化させるだけで,多くを語ることができる。能面のようだ。特に目。目の変化を見るだけで,何事がおこっているのかが観客に伝わる。上手い。この女性なら憑依されるだろうという期待に見事に応えてくれる。
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コメント
あ、ご覧になられましたか。センスオブワンダーと技術で低予算でも面白い映画は作れるということでしょうか…
コティングレーの妖精(1916)→10月革命(1917)
この力技には唸らされました。
投稿: 拾伍谷 | 2018.07.21 07:51
コンティングレーの養成と10月革命は,シンクロニシティでしょうね。
「霊的ボリシェビキ」のパンフレットの冒頭の文章で気付かされたのですが,『共産党宣言』の「ヨーロッパを幽霊が徘徊している。共産主義という幽霊が。」という一文は,革命と霊性との切っても切れない関係を示唆しているのではなかろうかと思ってしまいます。
投稿: fukunan | 2018.07.23 00:37