野呂邦暢『夕暮の緑の光』を読む
広島の古書店,アカデミイ書店で野呂邦暢『夕暮の緑の光』(みすず書房)を見つけた。
以前,買おうと思っていたにもかかわらず,忘れてしまってそのままになっていたものだ。
野呂邦暢は本当に素晴らしい文章を書く。
今から12年前,この人が書いた短編連作小説集『愛についてのデッサン――佐古啓介の旅』を読んだとき,「万年筆のキャップをはずして一行書けばそれが詩になる」(『愛についてのデッサン』佐藤正午氏による解説から)というぐらい詩情に満ちた文章を満喫することができた。
随筆についても名手と言われており,それを体験したいがために,『夕暮の緑の光』を買ったわけである。
『夕暮の緑の光』に収められた随筆「菜の花忌」(西日本新聞1975年4月5日掲載)の冒頭部分を引用してみよう:
葉書の差出人は知らない人であった。住所は京都である。つね日ごろ伊東静雄の詩を愛するあまり,この春思い立って詩人の生まれ故郷である諫早を訪ねたところ,詩碑のかたわらに花をさした数本のビール壜があったことを記して,個人に花を献ずるならばせめて空壜ではなくもっとましな容器がなかったものか,という文面であった。(『夕暮の緑の光』30ページ)
随筆なのだが,サスペンス小説の始まりのようでもある。京都,諫早,伊東静雄の詩碑,花を挿したビール瓶,とイメージ喚起力のある言葉が連なり,読み手を強く引き付ける。
単に味わうだけでなく,こういう文体を身につけたい,こういう文章の構成ができるようになりたい,そう思わせるような随筆がいくつも収められたのが,この『夕暮の緑の光』である。
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