末井昭原作・冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』観てきた
日曜日にYCAMで観た2本の映画のうちの二つ目は冨永昌敬監督『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018年)である。「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」編集長として名高い末井昭氏の若き日を描いた作品。
「芸術は爆発だったりすることもあるのだが,僕の場合,お母さんが爆発だった――」という有名な一節から物語は始まる。
ダイナマイト心中で母を失った田舎の少年はやがて大都市に出て,工員,看板描き,イラストレーターを経て,編集者となる。そして,新感覚のカルチャー・エロ雑誌を創刊,大ヒットさせる(さらに発禁処分を受ける)。
母親のダイナマイト心中という悲惨な出来事が,むしろ末井氏の周りに才能ある人々を集めるポジティブな作用をもたらしているというのが面白い。末井氏(演じるは柄本佑)は劇中で「母は爆発で僕を岡山の田舎から東京に吹き飛ばしてくれた」というようなことを言って,母に感謝している。
母(演じるは尾野真千子)に対して,どうしようもないのが父(村上淳)で,そのどうしようもないところは,
『流れる雲のように』第3話(末井昭,青林工藝舎・放電横丁,2013年12月2日)
に描かれているので是非,ご一読ありたい。
いろいろと規制がある一方で,大らかさを感じる昭和時代。その空気が十分に伝わってくる。
末井昭役の柄本佑の演技がとても良い。俳優ではなく裏方の仕事がしたかったというだけあって,デザイナーや編集者の仕事ぶりが板についている。
末井氏の糟糠の妻を演じる前田敦子の演技も良い。美声ではないし,ちょっと訛っているのが自然である。あっちゃん頑張っている。この糟糠の妻と末井氏は後に別れており,そのあたりのことは
『結婚』(末井昭,平凡社)
で触れられている。これもご一読ありたい。
愛人・笛子を三浦透子が演じているが,バタ子さんこと田畑智子に似た感じ。メンヘラ―の演技が上手いし怖い。
末井氏の雑誌の検閲を担当する警視庁諸橋係長を松重豊が演じているが,妙な真面目さと訛の混じった語り口に,観客からも笑いがこぼれた。
エンディングには末井昭氏ご本人と尾野真千子によるデュエット曲「山の音」(菊池成孔)流れるが,ヘタウマの妙ですごく良い曲になっている。
褒めるところばかりの面白い映画だった。昭和万歳。
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