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2018.06.13

紀田順一郎『読書の整理学』再読

うちの本棚を眺めていて,たまたま目についた紀田順一郎『読書の整理学』(朝日文庫)を手に取った。

「情報化社会に対応した・・・(中略)・・・”最新読書技術辞典”」と裏表紙に書いてあるのだが,朝日文庫版の書版は1986年。三十余年前の内容なので,隔世の感がある。

何を以て隔世の感があると言うか。それは,情報収集の中心が活字情報ではなくなってきたということに尽きる。

本書が書かれた当時は,情報収集の中心は書籍,雑誌,新聞など活字メディアだった。今は何でもネット。

読書という行為は今もなお健在だと思うが,読書と情報収集の分離が著しくなったのが現在だと思う。

かつては,情報収集のプロセスとして,

読書→ノート→カード化→整理

という一連の作業が行われていた。つまり読書を起点として個人的にデータベースを作成する(実際にカード化などしなくても,頭の中にデータベースを構築することもある)ことが情報収集の中核を担っていたのだが,今では,すでに出来合いのデータベース(狭義のデータベースだけでなく,googleやwikipediaも含む)を利用することが情報収集術となっている。つまり能動的情報収集から受動的情報収集へと変わってきている。

読書自体は,というと情報収集の中心から外れ,楽しみとしての読書へと,いわば純化路線をたどりつつあるように思う。「創造的な読書活動」の強迫観念から離れることができてよかったのかもしれない。


◆   ◆   ◆


隔世の感,と言ったが,そう思ったもう一つの理由は,著者の蔵書家人生が今,終焉を迎えつつある,ということにある。

老境に達し,家庭の問題から莫大な蔵書を手放さざるを得なくなった事情が近著『蔵書一代』に記されている。

実は『読書の整理学』にも「蔵書の一代性」ということが記されている:

「蔵書という「群」全体は,一人の読書家の比類のない人格と精神遍歴の総体である。したがってこれを本来の意味において継承しうる者は厳密には存在しない。もっとも近い血縁の者ですら,これを継ぐことはできない。」(『読書の整理学』,233ページ)

「蔵書一代は,感傷ではなく,一つの諦観,悟りである」(『読書の整理学』,234ページ)とまだ働き盛りだった著者は述べていたが,本当に手放さざるを得なくなった時,著者はどう思い,どう行動したのか。それは『蔵書一代』に克明に記されている。

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コメント

>出来合いのデータベースを利用することが情報収集術となっている

音楽はそちらへの移行が完了しつつあります。配信サービスは過去にCDリリースされたタイトルの内かなりの量をデータベースとして公開しており、比較的安価な定額利用が可能となっています。検索性もまた魅力であり、自宅のコレクションから探すより配信で探した方がはるかに速かったりします。

つまりCDショップどころか中古ショップすら必要なくなる事態になったと言えるかと思います。データベースからダウンロードし自分専用のアーカイヴを作るのは能動的情報収集といってよいかもしれません。そしてその「蔵書」を公開して共有する時代になるでしょう(著名な音楽家の個人アーカイヴの公開など)。

もちろん落とし穴はあり、初期段階でデータ登録の不備(スペルミスなど)があると検索しても出てこないことが問題視されます。とは言え、この方向で今後はさらなる技術革新(音質、データ容量)がなされてゆくことになると思われます(かく言うわたしもSpotifyで音楽を聴くことが多くなってきました)。

投稿: 拾伍谷 | 2018.06.22 13:53

確かに既成のデータベースを編集して個人用のアーカイブを作るのは能動的だと思います。

ただ,大多数の人々はただ単にデータを蓄積する,あるいは自然に散逸させるままで,アーカイブの構成には至らないと思います。まあ,遍歴が記録されれば,それはそれで面白いとは思います。

人工知能の恐ろしいところは,人間に検索すらさせず,気に入りそうな物をリコメンドするようになり,人間にそれを受け入れさせてしまうという未来をもたらしそうなところです。

投稿: fukunan | 2018.06.29 16:39

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