細川元首相,漢籍4175冊を中国に寄贈
日本ではあまり大きなニュースになっていないが,細川護熙元首相が理事長を務める永青文庫から中国国家図書館に36部4175冊の漢籍が寄贈されたとのこと:
「日本の永青文庫が中国国家図書館に漢籍4175冊を寄贈 北京で式典」(人民網,2018年6月27日)
人民網日文版の記事はあっさりしているが,澎湃新聞(中国語)ではもう少し詳しく報じられている:
「日本前首相向中国捐赠4175册汉籍,含失传千年唐代典籍」(澎湃新聞,2018年6月26日)
この記事で大事なポイントは,寄贈された中に,中国では唐代末期に亡失していた『群書治要』が含まれているということである。
もちろん,唐代のものではなく,天明7(1787)年の刻本である。『群書治要』に関しては,過去(清朝嘉慶年間や1990年代)にも写本が中国に渡ったことがあり,今回が初めてではない。
唐末に失われた『群書治要』がなぜ日本にあるのかというと,遣唐使が写して持って帰り,日本の公家・武家の間で伝わっていったからである。
中国本土で戦乱の中で失われた漢籍が日本に存在するということはよくあることで,東海姫氏国たる我が国の面目躍如といったところである。
『群書治要』は春秋戦国から晋代に至る典籍から治世の知恵を抜き書きしたもの,つまり帝王学の参考書である。
先ほど「過去(1990年代)にも写本が中国に・・・」と書いたが,これが重要なところである。1990年代に寄贈された『群書治要』は中国共産党の大物,習仲勲のもとに渡り,この書についての研究が行われることとなった。
その習仲勲の息子が,現国家主席の習近平である。
『群書治要』と習近平の浅からぬ縁については中国通の安田峰俊がこういう記事を書いている:
「中国の支配者・習近平が引用する奇妙な古典 ――「紅い皇帝」のダヴィンチ・コード――」(by 安田峰俊,ジセダイ総研,2015年04月23日)
澎湃新聞の記事によれば,中国国家図書館では今回の寄贈を記念して「書巻為媒 友誼長青――日本永青文庫捐贈漢籍入蔵中国国家図書館展」が開かれるとのこと。
今回の漢籍寄贈が日中関係に与える影響は割と大きい。
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