千野隆司『塩の道―-おれは一万石(2)』を読む
何度も書いているが,うちのツマのご先祖は加賀藩主前田利常公に仕え,禄高10,950石を拝領していた重臣,小幡宮内長次(おばたくないながつぐ)だった(参考記事:「加賀藩・小幡宮内家の近世」)。なので,千野隆司『おれは一万石』(双葉文庫)には過剰に親近感を持つわけである。
『おれは一万石』はすでに読み終えたが,その続き,『塩の道-おれは一万石(2)』を今頃になって読んでいる。
前作は天明6(1786)年,老中田沼意次が失脚しそうな不穏な雰囲気の頃の話だったが,本作は同年の晩秋から話が始まる。
主人公は,下総高岡藩井上家に婿入りした井上正紀(まさのり)17歳。
前作では高岡藩小浮村の洪水を食い止めるべく2000本の杭を調達したり,農民と一緒に普請に参加したりと大活躍だった。小藩のトップは自ら最前線に出ないとだめなのである。
本作では凶作に見舞われた藩の財政を立て直すべく,財源探しをするというのが最大のミッション。国元の家老ら抵抗勢力と論戦したり,二つ年上の姉さん女房・京に気を遣ったり,セブンティーンなのにいろいろ忙しい正紀である。
さて,老生の手元には古地図資料出版による復刻版の「大日本行程大絵図」(天保14年卯5月御免,安政4年巳5月刻成)がある。この地図で高岡藩の位置を確かめてみると・・・
右の中ほど,白い点線で囲ったところに,「井上筑後守殿 高岡 1万石 江戸より19里」とある。
江戸からは遠いような近いような微妙なところ。
正紀は普段は江戸・下谷広小路の井上家上屋敷に住んでいる。これまた古地図資料出版による復刻版の大江戸絵図(明和八年辛卯)で確認すると…
あったあった。左端中ほどからやや下,点線で囲ったところに「井上筑後守」とある。義父の井上正国は従五位下・筑後守だった。
ということで,古地図に照らしながら『おれは一万石』シリーズを読むと面白さが倍増。
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