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2018.04.15

吉田裕『日本軍兵士』を読む

先日購入した吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)を読んだ。

この本は今,ものすごく売れている。2017年12月25日に上梓されたのだが,すでに第7版に達している。

太平洋戦争について語った歴史書は非常に多いが,兵士たちの目線で当時の実情をまとめ上げた歴史書は少なく(個々人の体験記は莫大な数が存在するが),その意味では大変画期的な本だと思う。

まず何より驚くのが,アジア・太平洋戦争(日中戦争+太平洋戦争)の日本人犠牲者310万人のうち,その9割が1944年以降に死んだものと推定されること。

そして,さらに驚くのが,日中戦争以降の軍人・軍属の戦没者230万人のうち,餓死者は37%(秦郁彦説)から61%(藤原彰説)に上ると推定されること,である。

戦没というと,砲弾に斃れたイメージが強いが,実際には餓死したものが相当数いるということである。ガダルカナル島のことを「ガ島」ではなく「餓島」と呼んだという体験記をよく見るが,ガダルカナル島のみならず戦域全体で餓死が死因の上位を占めていたことがわかる。昨年,塚本晋也監督の『野火』を観たが,兵士の関心の第一は,戦闘ではなく食糧だった。

他にも,30万人を超える海没者もおり,自殺者や「処置」と称して始末された傷病兵もおり,つまりは戦う前に,あるいは戦った後に死に追いやられた者が圧倒的な数,存在するということである。日本軍兵士の三分の一から半分は,連合国軍にではなく,日本軍自体に殺された,と言ってよい。


◆   ◆   ◆


ちなみに本書によると,日本政府は年次別の戦没者を公表していないとのこと。著者は岩手県の年次別戦没者データをもとに,日本人戦没者の推移を推定した。米国では年次別どころか,月別の戦死者データをまとめているとのこと。

「日米間の格差は,政府の責任で果たすべき戦後処理の問題にまで及んでいる」(26ページ)

と著者は述べるが,まさにその通り。

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