航空宇宙軍史はカトマンドゥで開幕する
海外出張時には訪問国と関係のない本を携えていることが多い。例えば,カンボジアに行った際は吉田類『酒場詩人の流儀』(参照)だったし,インドネシアに行った際はラーベ『雀横丁年代記』(参照)だった。
今回のネパール行きでは谷甲州『航空宇宙軍史・完全版一 カリスト-開戦前夜-/タナトス戦闘団』を持って行った。ただし,これが訪問国と関係ないかというと少し違う。
なぜなら,谷甲州とネパールは切っても切れない関係にあるからだ。谷甲州は青年海外協力隊の一員としてネパールで勤務し,その地で「137軌道旅団」や「星空のフロンティア」といった作品を書き上げた。これらのSF作品になぜか漂う土埃の匂いはネパールの大地と無縁ではない。
『航空宇宙軍史・完全版一 カリスト-開戦前夜-/タナトス戦闘団』の話は横に置いといて,「星空のフロンティア」の話をしよう。
時系列順で言えば,航空宇宙軍史の最初期を描いた「星空のフロンティア」は『仮装巡洋艦バシリスク』(ハヤカワ文庫 JA200,1985年)に収められた中編小説である。当時,高校生だった老生は,航空宇宙軍による宇宙探査の話であるにもかかわらずカトマンドゥ旧市街の情景から話が始まる「星空のフロンティア」には度肝を抜かれた。
「星空のフロンティア」に描かれたカトマンドゥの情景は,谷甲州が1970年代終わりから1980年代初めに見た情景だったのだろう。航空宇宙軍史の世界では,21世紀の終わりになってもカトマンドゥの姿は20世紀のままを留めていた。
今のカトマンドゥの状況はどうか? 航空宇宙軍史の世界とは異なり,少しだけ時計が進んだように見える。迷路のような街区は相変わらずだが,人々はiPhoneやGalaxy携帯を片手に街を歩いている。
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